決戦のーー
ハムハムがやってきたのは、またしてもシンデレラの部屋。
(なぜかしらーー?)
ここに、なにかあるの?
しかもドアまで開いてる。ハムハムは躊躇なく室内へ入ってしまう。私も、そっと入る。
「ハムハムー、どこー?」
小さめの声で呼びかけ、ハムハムを探す。
キュキュッ
あ、鳴き声がした。私は鳴き声がした方を見ると、本棚にハムハムがいた。
「ハムハム、おいで。お部屋に帰ろ……」
私がハムハムに手を伸ばしたその時、本棚の壁に私の手が当たり、ガコッと本棚の壁が凹んだ。
(ヒ、ヒイィ……! 壁を壊した!?)
私が驚愕で倒れそうになったところ、本棚がゆっくり動き出す。
(え、ウソ? 隠し部屋? なんでシンデレラの部屋に??)
まさに隠し部屋といった小部屋に、ガラクタのようなものが雑然と転がっている。
ーー一見して、黒魔術の道具。
大鍋やら人形やら、斧にロウソク、ムチに骸骨まで。
(アウト、アウトォォッ!!)
心の中で大絶叫する私。もう逃げなきゃ!
お母様たちが帰って来たら、事情を話そう!
私は怖くなってシンデレラの部屋を出ようとしたが、ハムハムが
キュキュッ、キュキュッ!
と鳴く。
(まだ何か出てくるの!?)
私が恐る恐るハムハムの方を見ると、衣装ケースがあった。
なにかしら。また変な危ない衣装が出て来ないでしょうね……?
半分目をつむり、そうっと私は衣装ケースを開けた。槍でも鉄砲でも持ってこい、とヤケで中を確認するとーー。
◇◆◇
「パース! パース!」
私は執事長の名前を呼ぶ。
「どうしました? お嬢様?」
「支度を……、舞踏会への支度をお願いします!」
私の言葉を受け、パースは一礼をする。すぐさま支度部屋が整えられ、私は着せ替え人形と化す。まずはメイク。
パースは色黒の顔を綻ばせ『今から準備すれば、舞踏会には間に合うでしょう』と心強い一言を残し、室外へ出る。
私は衣装担当の使用人に衣装ケースを渡す。
「は……?」
「衣装はこれにします。今日は、いつもと同じものを着るわけにはいきませんので」
「しかし、これは……!」
髪は整える時間がない。アップにしてあとは流す。髪飾りで然りげ無く飾りました、的に誤魔化す。
ベテランの使用人たちがテキパキと、支度を進めていく。
私は、舞踏会へ行く。私が行っても別に何があるわけでもない。できることもない。
ただ、何かが起こるとするならば自分で状況を把握しておきたい。
何の能力もないーー、なんて気にしない。私自身の気持ちが大切なのだ。何ができるなんて、あとから考える。
今まで、受け身でいた。努力はしてこなかった。特別な力に恵まれてるわけではない。だけど、それが尻込みする理由にはならない。
私は強くない。……ううん、弱い。
だけど、立ち向かわないでいるなんて、できない。例え意味のない足掻きでも、闘う!
真実を知るために!
「馬車の用意ができました」
パースが落ち着いた声で告げる。
「わかりました。ありがとう」
私がエントランスから外に出ると、漆黒の馬車が待っていた。家紋である四角の盾と丸の花が金縁に囲われ、厳かな佇まいを感じさせる。
これは、お父様の馬車ーーロワール家の当主が使う馬車だ。お父様も重要な用件の時にしか使わなかった……。
「お嬢様ーー。ご武運を」
「行って参ります」
パースの一礼に見送られ、私は馬車に揺られる。身が引き締まる思いで。
ーーいざ、決戦の地、宮殿へ!




