大脱走2
ーー私には、疑問が浮かぶ。
シンデレラが、もしも怪しげな『呪い』を使ったとするならば、なぜ私だったのか。
……マダムがドレスを忘れ、ようやく私に届いたドレスが破かれた。これって偶然とは思えない。
なにか、理由があるのでは……。
ーーしかし、私にはなんにも思い当たる節がない。私は『姫騎士』ミコト様みたいな男装の令騎士でもない、『爆音ピアノ連弾』シフォン様のように情熱的なピアニストでもない、『令嬢類最強女子』サホーリー様のような淑女でもない……。
強くもないし、特技もない。学があるわけでもない。……無力感に苛まれる。自分だけの強みがあれば、『自信』や『やる気』に繋がるのだろうけれど、私にはなにもない。
(もしかして、舐められてるだけ?)
…………あ、そんな気がする。別に私になにか理由があるんじゃなくて、シンデレラが私のことを下に見ていて、嫌がらせというか『呪い』の実験台にしてるだけ……?
(だとしても、どうしようもない……)
私は溜息を漏らす。
舞踏会はもう間もなく開催される。今はお茶会の真っ最中だろう。私が今からできることなど、ない。
お母様やお姉様が無事に帰って来るのを待つだけだ。私は、普通の令嬢だし……。シンデレラも、舞踏会でなにかできるとは思えない。
(静かに待つのが一番。なにかあっても、その時に考えよう。万が一、最悪の場合でも追放とか、ならないでしょうし……)
私は不安を押し殺し、窓の外を眺める。
ーー本当に黒魔術による『呪い』が使えて、シンデレラが第二王子と結ばれると仮定する。私たちに恨み(?)を晴らそうとしても、いきなり追放なんてできない。できることなんて、他の貴族たちと疎遠になるよう社交界から締め出すくらい。それも困るけど、生活ができなくなることもないし、それが永続することもないはず……。
ーー間もなく、薄暮時になる。
舞踏会が、始まる。
タタッ……
その時、どうやって抜けたのかハムハムがカゴから出て部屋の外に出る。私に、意味ありげな視線を残したような気がした。
ーーなんで、今日に限ってハムハムは脱走ばかりするの!?
私は慌ててハムハムを追いかける。




