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ノロイ

 私は自室に戻った。

 黒い本は、シンデレラの部屋のベッドの下に戻した。


「……」


 一息吐き、ちょっと冷静になって考える。


(シンデレラって、普通じゃない……)


 だけど、『黒魔術』とか『呪い』とか、非現実的だ。シンデレラが人形に釘を刺したことは知っている。お母様や私たちに何かしら思うところがあったのは知っている。被害妄想が強いところも、自分を卑下しすぎるところも、悲劇のヒロインぶっているところも……。

 そして、シンデレラが普通のーーなんの特殊能力も持たない女の子だってことは百も承知だ。

 ーーだけど、一つだけ気になることがあった。


『記憶改竄の呪い』


 ドレスを試着する時、仕立て屋のマダムが私のドレスを忘れそうになった。出来上がりのドレスを持ってきた時もそうだ。私のドレスのことを、マダムがスルーしそうになった。

 その時は気にかけなかったが、マダムがそんなミスをするのはおかしい。


(なんらかの力が働いている……? 特殊な薬……? しかし、そんな『呪い』や『薬』ってあるの? そんなのがあって、使える人物がいれば国が無茶苦茶になる……!)


 私は怖くなった。これ以上、首を突っ込めば国家クラスの陰謀が渦巻いてそう。


(それは考え過ぎか……。でも、もしそうだったら、シンデレラは利用されている? ……私たちには、なんの力もない。むやみに動いて、巻き込まれたら命の危険も……?)


 私はそこまで想像を膨らませるが、そんなことはないか、とその考えを打ち消した。

 ちょっと不思議なことが起こったからと言って、国家クラスの陰謀もないだろう。


 ・ ただ、偶然が重なっただけ。ーーだけど、シンデレラは普通じゃない。

 ・ シンデレラが不思議な力を持ち、私たちを陥れようとしている。


のどちらかなんだろう。

 どちらでも対応できるよう、心構えだけは持っておこう。受け身な姿勢だが、すぐに正しい行動が浮かんでくるはずもなく……。

 一番無難というか、様子見、するしかない。『事なかれ主義』というか、嵐が(もし来れば)過ぎ去るのを待つしかないのだ。


「……あれ? でも、なぜ私なのかしら?」

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