秘境の温泉の別嬪さん
俺は秘境の雪山に登山に来ている。
と言っても、登山が目的では無く知る人が殆どいない穴場の温泉に浸かるのが目的。
この温泉には冬しか入れない。
源泉からは1年中湯が湧き出ているのだが、100℃近い湯を割る水が無いのだ。
水が入った20Lのポリタンクを10缶以上用意できれば入れるだろうけどね。
そんな物を持って登山なんて御免被りたい。
だけど冬なら周りの雪を掻き集めれば良いだけだから、持って行くのはスコップ1本で済む。
そして此処に来る目的はもう1つある。
それは温泉の効能の1つ、美肌効果が他の温泉に比べて格段に優れているって事。
その美肌効果のある温泉に浸かりに、女性登山家が来ている事が多いのだ。
人が殆ど訪れない混浴温泉に男女が2人、何があってもおかしくないだろ? フヘヘへ。
やっと温泉に到着、オ! ラッキー。
女だ、それも三十前後の凄い別嬪さん。
それに先客がいるって事は雪を掻き集める必要も無いからな。
岩陰で服を脱ぎ、かけ湯を……アレ? 何時もより湯温が低いな、まあ良いか。
先客の女性に会釈して湯に浸かる。
「こんにちは、何処からいらっしゃたんですか?」と声を掛けながらジリジリと別嬪さんに近寄って行く。
なんか別嬪さんに近寄れば近寄るほど湯温が低くなっているような。
別嬪さんが声をあげる。
「近寄るでない! 死ぬぞ!」
「まぁまぁ、物騒なこと言っても此処にはアンタと俺の2人切り、幾ら声を荒らげても助けなんて来ないんだ。
痛い目に合うより2人で楽しんだ方がアンタも良いだろ?」
そう言い捨て別嬪さんに手を伸ばす。
ヒ! 冷てぇー。
別嬪さんの周りの湯、否、水は氷水のように冷たい。
「つけあがるな!」
「冷てぇー! 熱いー! 冷てぇー! 熱いー!」
俺は源泉の直ぐ傍で、源泉から湧き出る湯と押し寄せて来る氷のように冷たい水を手足をめちゃくちゃに動かして混ぜ合わせている。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 許してください! 助けてー!」
必死に別嬪さんじゃ無くて、美肌効果を楽しみに来た雪女に許しを請い助けを求めていた。
このままだと、茹で上がるか氷漬けになるかの二択しか無い。
助けてー!