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混戦

 お下劣女が放つ銃声が響き渡ると同時に飛び込む俺だったが、この妖精のボス、ティターニアへと駆け寄った瞬間に視界は稲光のような光に包まれ、一瞬の内に吹き飛ばされる。

 勝利を疑わないティターニアは加減でもしているのか、全力など出す必要もないと思っているのか知らないが、今の所、肉体へのダメージは全て冷たい床が担う事になっており、俺は再び這いつくばる恰好となった。

 しかしあの魔法の杖には困ったもんだが、こういうのには慣れっこだ。痛いくらいで大して効きやしない。

 俺は即座に立ち上がるが、この目に映ったのはお下劣女の変わり果てた姿だった。


「お下劣女!」


 思わず声を上げる俺は、銃を取り落とし、床へと崩れ落ちたお下劣女の元へと駆け出すと、その細い身体を抱き起こしながら叫んだ。


「おい、終幕にはまだ早いぜ、相棒よ!」


 長い長い旅路を共にしてきた親愛なる相棒・お下劣女。

 妙に自信家で知識があって、やたらと金持ちで、少し口の悪い親愛なる相棒。

 それが今では弱りきり、俺の腕の中で息を切らしている。


「そんな顔はお前には似合ないぜ。ほら、いつものように毒の一つでも吐いてみろよ」


 相棒は答えず、荒くて熱い息を吐き出し続ける。


「嘘だろ、相棒よ。ひょっとして、また風邪かよ。よし、待ってろ。今からこの妖精女をとっちめて、リリーに貰ったあの薬を取ってきてやるからな。なあに、心配するな。全て上手くいく。何しろ俺は強いんだ。今からあのいけ好かないボス女の吠え面見せてやるからな。ちょっとだけ待ってろよ」


 俺は相棒をそっと横たえ、いけ好かないボス妖精の方へと向き直る。

 ティターニアの方は何がおかしいのか、心底面白そうな笑みを浮かべていた。


「ですから、わたくしは言いましたのよ。そのような魔法弾を幾ら撃とうとも、わたくしには通じないばかりか、残り粕に過ぎない魔力を消耗するだけだとね」


「そんな事まだわからないだろうよ。この巨大害虫女が、そのみっともねえ玩具の杖がなければどうせ何も防げやしないんだろう」


 軽く挑発してやるが、ティターニアは意地の悪そうな笑みも絶やさず返してくる。


「万策尽きた者は苦し紛れの挑発行為に走るものね。あなたの言う玩具、ロッド・オブ・アヴァロンなら手放さないわよ、騎士気取りの下郎どの。第一、優勢に立っている者がどうして弱者のために持てるカードを手放してやらないといけないの。それこそ理不尽な話ですことよ」


「そうやって理屈を並べ立て、言葉で飾ってみせる態度から察するに、どうも図星を突いちまったみたいだな」


「どうやら手も足も出なくなった下郎どのは、口しか動かせなくなったようね」


 ティターニアは僅かに眉尻を上げ、ゆっくりとした動作で歩み寄って来る。

 俺はその余裕に満ちた動きと逆に素早く動くと、床に転がっている拳銃を手に取って構えた。


「口しか動かないかどうかは、今にわかるぜ」


「……はあ?」


 この行動によほど驚いたのか、ティターニアは素っ頓狂な声を上げると足を止めた。

 そして小さく笑い出す。周囲にいる雑魚妖精さえも、ふすふすと笑い出す。


「下郎どのはついに頭がおかしくなってしまったのかしら。残念だけど、その銃はね、使い手の魔力を使用して魔法弾を作り、撃ち出すものなの。魔力の無い人間には逆立ちしたって扱えない事よ」


「やってみなきゃわからないだろ」


「やってみて仮に撃てたとしても、通じやしないわよ。あなただって、ヴィヴィアンの無様な様子を見ていたでしょう」


 いよいよおかしくなってきたのか、ティターニアはその笑いを徐々に大きくしていった。

 奴のその反応に俺もおかしくなっちまったもんで笑みを返してみせるが、銃を握る手からは汗が止まらない。

 立てた作戦通り、上手くいくか。ここが勝負だ。俺は引き金を引くと同時に駆け出した。



※※※



 どおんっという一際大きな轟音が拳銃から鳴り響く。

 響き渡るその音と同時に、手元へと銃撃を受けたティターニアは顔色を変える暇もなく杖を取り落とす。自慢の武器を取り落とした奴の顔色はさっと青くなるが、その頃には猪突猛進といったように駆け出していた俺が、いよいよ接近し、体当たりを喰らわせていた。

 その辺の痩せた女同様に軽いティターニアは吹き飛ぶと、今度はパニックでも起こすようにして余裕のなくなった、悲鳴じみた声を発した。


「頓珍漢の悪戯者ども、その杖を渡すなっ!」


 言うが早いかティターニアは立ち上がり、背中を向けて走り出す。

 きっとボスの命令通りに動くのであろう妖精たちに対し、俺は迎撃の構えを取るが、次いで、床に転がる杖の元へと駆け出すお下劣女の叫び声を聞き届け、構えを解いて足を動かす事にした。


「よくやった、弦次郎くん!もうあいつは無力だ、とっちめてやってくれ!」


「任せな、大英雄である俺が敵将を討ち取ってきてやるぜ!」


「いつまで見てるの、悪戯者ども!ロッド・オブ・アヴァロンを渡すな!」


 三者三様、叫ぶ言葉が行き交う中、ボスの命を受けた奴ら、妖精も囁き出す。


《今更なあに》


《ねえ、どうしよう》


《どっちの方が楽しいかな》


《どっちにしても楽しくなるよ》


《でも杖を取られると塔も取られる》


《塔を取られるとどうなるの》


《引きずり下ろされる》


《人の国にいられなくなる》


《いちばんの人気者でいられなくなる》


《じゃあ決まり》


《《杖を取り戻そう》》


 いつもの調子を崩さない妖精どもは杖へと向かって一直線に飛び始めるが、俺は相棒の言う通りに脇目も振らずに逃げていく妖精のボス、ティターニアを追って素早く足を動かした。

 あともうひと踏ん張りだ。ここは頼んだぜ、お下劣女。親愛なる相棒よ。

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