終着点
あの日、テレビで会見するジョージ・マッケンスキーを見てから。
あるいは、流行りのレトロなゲームでお気に入りの妖精を仲間にし、最大強化した時から。
愛らしい妖精への好奇心と冒険心の炎に心を燃やした俺は、飛び出すようにして家を出た。
本物の妖精がいるという確証なんてどこにもなかったが、そんなのは行ってみればわかる事だし、何より本物の妖精がいるとするならば、俺はどうしても会ってみたかったんだ。だって、あんなに可愛いんだぜ。きっと俺じゃなくてもそう思うだろう。
だからこそ、この世紀末的大渋滞が起こっているんだと、俺はそう思ってた。
それがまさか、そんなクレイジーで信じ難い真相が隠されていたなんてな。
しかし、件の話が本当だとすれば、この自称・ジョージ・マッケンスキーのお下劣女が一人きりで自分の領地を取り返そうと行動してきたのも頷ける。
あのお下劣女当人からすれば、自分をジョージと名乗った上に、突然現れた妖精がテーマパークを乗っ取ったなんて言い分を持って警察に駆け込めば、良くて笑われるか、悪ければ病院に直行だ。
けれど、そんな頭のおかしい真相よりも、もっと驚くべき事実が俺にはあった。そいつは俺の心の変わりようだ。
旅に出たばかりの頃は妖精に会い、その存在を確認し、出来る事ならその愛らしい身体を抱きしめられれば俺はそれで良かったんはずなのに、どうもこの親愛なる相棒と共に冒険を進めている内に、至上目的である妖精以上に大切なものが出来てしまったらしい。
俺は横目で助手席を見る。
そこには、いつものようにだらしないというか、ふてぶてしいといった態度で座るお下劣女が変わる事のない不遜な態度で微笑み「ちょっと進行が止まるとまたいつもの日記帳かい」などと不躾に言う姿がある。
だが、今回に限っては日記帳と言ってもいいだろうから、俺も笑い返すだけで言い返しやしない。
前にいる車たちが動く。
フェアリーランドに近付く度に、道路周辺は騒がしさを強めていき、四方八方から怒声が鳴り響き、喧嘩騒ぎが始まるのが見える。
その騒動の多さの前に、元々人手不足の警官たちは一人辺り百人くらい相手にしなければ収まりなんかとても付かなそうな超人的活動を強いられる訳で、トラブルの全てに対応する事は事実上、不可能だ。
更に言うならば、こんな状況下にあっても、この日本にあっては奴ら、銃さえ抜く訳にいかなければ決して奪われる訳にもいかない。つまりはジリ貧だ。
おかげで警官たちはすっかり疲弊しきっていたが、街へとやって来た渋滞族も周辺に居を構える地元民も、お構い無しに睨み合い、収められる側から騒ぎを起こす。
もちろんその中には、俺に対して睨んでくる恐れ知らずの野郎もいたが、俺は全く相手にもしなければ気にも留めてやらなかった。
昔の俺だったら、中指の一つでも立ててやったと思うんだがな。何故だか、もうそんなみみっちい事をする気にもなれねえ。
もしかしたら、この旅で俺も少しは大人になったって事なのかな。
「弦次郎くん」
いつの間にかその顔にマスクとサングラスを付けているお下劣女が語りかけてきた。
「ああ、ついに来たな。レトロな不審者女さんよ」
少し前の方を見渡してみると、先に続く道路脇には荘厳ささえ感じる煌びやかなライトが幾本も並び立ち、その奥にはエントランスへと続くであろうトンネルが見える。脇にはいかにも屈強そうな男従業員が数名。
あのトンネルを車で抜けた先に、広大なフェアリーランドが広がっているという訳か。
「まずはトンネルを抜ける。中では妖精どもに会う事になるが、そいつらに対しては適当にでれでれして鼻の下でも伸ばしておけば問題ない。奴らは自己愛が強すぎるからね。で、その先の話なんだが……」
「おうよ。どんと来やがれ」
「内部に侵入してからは出来るだけ車を進めるよ。ある程度、進めた所で車を降り、庭園を突っ切り、中央に聳えるフェアリータワーまで辿り着いたら、ひたすらに塔を登るんだ。最上階に妖精どものボスがいる。雑魚は倒していいが、きりがないから必要以上に構うな」
「要は襲ってくる奴を殴ったり蹴ったり踏んづけたりしながらボスの元まで行けばいいんだろ。安心しろ、俺の得意分野だ」
「そこは信じる。だが、ボスは手強い。魔法を使うからだ。弦次郎くんでも相手をするのは無理だろう。だから、ボスにまで辿り着けたら、奴が持っている杖を奪ってほしい」
「杖だぁ?」
「魔法の杖だ。ロッド・オブ・アヴァロンという。それさえ奪えば奴を無力化できる」
「まあもし戦ってみて駄目そうだったら奪いにいくさ。でも、倒せそうだったらそのまま倒しちまうぜ」
「この怖いもの知らずめ」
にやりと笑って言うお下劣女。
「お前は見てなかっただろうが、俺は既に豚の神を倒してるんだぜ。今更、妖精くらい何だってんだ」
そしておそらく相棒と同じような顔をして返す俺。
もう、旅の終着点はすぐそこだった。




