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真相

 事情を、真相を、そして過去を。お下劣女は粛々と語る。

 憂いを帯びた表情はそのままに。口だけは止める事なく。


「人よりも良い家に生まれたあたしは、小さな頃から英才教育を施されてきたよ。そのおかげか自慢じゃないが、あたしはいつでも優秀で万能で、大抵の事は何でも出来た。それこそ一から百まで教わる前に千をこなす勢いで動いていたね」


 俺は煙草に火を点け、無言で先を促した。


「ともかく、そういう風に育ってきたあたしは教育の賜物か持って生まれた才能か、あるいはその両方かの力を持って、やがてフェアリーランド経営トップまで登り詰めるとテーマパーク支配人という肩書を持つに至った。それが約、四年ほど前の話だ。その後の経営について言えば順風満帆だったと言える。あたしは極めて有能であり、多くの仕事を完璧にこなしたからね。だが、そんな有意義な日々にも、終焉というものは訪れる。それも、最高責任者であるあたしの能力の有無、仕事の是非さえ問う事なくね」


「四年前っていうと、本物の妖精が見られるって話が出る前だな。なら、その終焉をもたらし、東京フェアリーランドを乗っ取ったのが妖精って訳かい」


 飲み込みが早くて助かる、とお下劣女は言い、先を語る。


「ご明察だよ。そう、それは二年ほど前、客もいなくなった深夜の事だ。突然現れた奴らは好き勝手にテーマパーク内を暴れ始め、フェアリーランドは一夜にして陥落したのさ。そしてあたしの正体といったら、革命者気取りの妖精どもに支配者の立場を追われる事になった哀れな元・トップ、ジョージ・マッケンスキーという訳だ」


「こりゃあまた随分と荒唐無稽な話だな。今回ばかりは流石の俺も、どういう反応をしていいのかわからねえ」


「そうだろうね。しかし遅かれ早かれ、フェアリーランドへ行けば全て理解させられる事になる。奴らの凶悪さも、そして心底、人を舐め腐った態度もね」


 確かにそうだ。こいつの言う通り、真相は遅かれ早かれわかる事だ。

 本物の妖精がいるかどうかも行ってみればわかる事だろう。

 俺は逡巡の後、口を開いた。


「で、その真相ってものを何故、今になって俺に話したんだよ」


「それについては、さっきも言った通りだよ。この地下道を行く旅で弦次郎くんに助けられたからだ。元々あたしはフェアリーランドへ辿り着ければ道中の事なんてどうでも良かったのだけどね。一方的に助けられたまま旅を終えるのでは、あたしのプライドが許さない。それに、こうして共に旅を続ける間柄だ。はっきりとさせておかなければならない事もあるだろう」


 お下劣女は手にした麦酒をぐびりと飲み干し、続けた。


「妖精に魅了され、妖精を追い、妖精をその手に抱いてみたいという弦次郎くんと、妖精に追われ、妖精を恨み、妖精をぶち殺しに行くあたし。そんな二人が、この先の旅を共にして行くのか否かという重大な選択についてね」


 麦酒の缶を置くお下劣女は首を動かし、俺の目を見つめてくる。その視線は、まるで心中を推し量ってくるかのようなものがあった。

 だが、最もハードでデンジャーなミッションをこなせる男である俺は全く怯む事はない。もっと言えば俺の言うべき事は既に決まっていたからだ。

 俺は親愛なる相棒を見つめ返しながらそれを言ってやる事にする。


「そんな昔話や選択問題より先に、お前は俺に言うべき事があるんじゃないのか?」


 お下劣女は眉を顰めるも、目の色だけは変わる事がない。


「今、最も重要なのは俺を信用し、俺に頼り、俺に助けを求める事だろう。昔語りなんかよりも、その口から言ってみろよ。困っているから助けてくれって、俺に向かって言った方がきっと何事も上手く行くと思うぜ」


 不敵に微笑む俺に、お下劣女は呆気に取られたような顔を返しながら口を動かす。


「……それはつまり、あたしの言う事を信じ、あたしの味方をしてくれると?弦次郎くんのその言葉を、あたしはそう解釈してもいいの?」


「おいおい、その話を全面的に信じるかどうかなんて、行ってから決めればいい事だろ。重要なのはお前が俺にとって、親愛なる相棒であり、そのお前が困っているって事さ。だから、全て俺に任せて助けを求めてみればいい」


「自分が何を言っているのかわかっているのかい?あたしは妖精を一匹残らず殺しに行くんだよ。あたしを助けるという事は、あの害虫どもを一緒に踏み潰して回るってことなんだよ」


 驚きのあまり、掠れた声で言うお下劣女へと俺は返してやる。


「言う通り、その妖精が悪逆無道を地で行く害虫だったらな。それに、最もハードでデンジャーなミッションをこなせる男ってのは相棒というものを捨てやしないんだ。それよりも、ほら。言ってみな。まあもう言わなくても腹は決まっているけどな」


「弦次郎くんの自意識の高さ、尊大さには驚くばかりだな」


 お下劣女は意地悪でもするかのように笑う俺へと言うと、緊張を解されたように微笑んだ。

 そして、続けるようにその言葉を呟く。


「弦次郎くん、あたしを助けてくれ。東京フェアリーランドを取り戻す手伝いをしてくれ」


「当然だ。最もハードでデンジャーなミッションをこなせる男である俺に、全て任せておけ」


 俺は胸をどんと叩くと、力一杯に言ってみせた。

 そしてついさっき、この素直でない下劣な捻くれ者が言った一つの大嘘を思い返す。


『元々あたしはフェアリーランドへ辿り着ければ道中の事なんてどうでも良かった』


 こいつめ。そんなはずがないだろうが。

 もしもそれが本当ならば俺の車を選んで乗る必要もないし、安藤の時にしたって、綺羅星ちゃんの時にしたって、リリーの時にしたって、俺に手を貸す必要なんてなかったはずだろうに、全くどこまでも素直じゃない女だよ。


 だが、寛大な俺はあえてそこに突っ込む事はしない。

 何故ならば俺の方も、散々、こいつに助けられてきたからだ。

 そしてそれに対する感謝の言葉を、あえて口にする事はなかったからでもある。

 これが何を意味するかって言うと、要はおあいこだって事さ。

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