健闘
人生は、いつもハードでデンジャーなミッションに満ちている。
夢を追って転がり落ちる奴もいれば、運良くチャンスを掴んで物にする奴もいる。
その一方で夢を追う者を嘲笑い、退屈な日常に骨を埋める奴もいるだろう。
そして、時には俺のように竹箒に叩かれて呻く奴だっている。
まあこいつばかりは稀なケースだろうがね。
ともかく、俺が今思う事は、どんな道を行くにせよ、それは自分の手で選び取り、自分の意志で歩くべきだって事。
他人の意見だなんて、全く関係なければ豚も牧場も何一つ関係ない。もっと言えば、成功するか失敗するかさえ関係ない。
第一、そんな物はどうせ後からしかわからねえ事だし、考えるだけ無駄ってもんだろう。
あの世間知らずの乙女たちはこれから多くの喜びと苦しみ、成功と挫折を知っていくのだろうが、俺はそれを心配しちゃいなかった。
何しろ、この俺と出会い、大冒険をやってのけたんだぜ。自分の力でな。
これからだって、それは出来るに決まっている。疑う余地なんて、それこそ便所の隅に転がるトイレットペーパーの欠片ほどもあるはずがない。
いつの日にか、この偉大なる冒険伝記を読むであろう皆さんにもそれはわかるはずだ。
親愛なる読み手たる皆さんにも、大いなる冒険の日々と成功が訪れる事を、俺はここに願う。真摯にな。
※※※
「ったく、あいつ、どこへ行きやがったんだ」
白い少女たちと共に一大革命をやり遂げ、手記を書く俺は、がらんどうになった礼拝堂の一番綺麗な椅子に腰かけ、独りごちた。
冷たい床板からは二頭の巨豚様が体を縛られたままで呻いている。そういやこいつらもいたんだっけ。
髭の警官の奴は後から警察が何人か来て連行するって言って少女たちと共に出て行っちまったが、動けなくしてあるとは言え、極悪犯を放ったらかしにしておくとは、いい加減な仕事もあったもんだ。
手が空いてしまった俺は、今後の事を考え話したくもないあの牛野郎こと牛浜に連絡をしてみる事にした。
デバイスに指を滑らせると思いの外、奴はすぐに出た。
『生きていたのかい、デストロイヤー。まさかとは思うが、埼玉に着いたのか?』
牛浜の少し驚いたような声が聞こえる。
『残念ながらまだ福島だ。ちょっと道草食っちまったもんでね』
『……福島だと?』
牛浜は更に驚いたような声を発すると、少し考え込むように間を空けてから続けた。
『想像以上に頭が飛んでる野郎だな。そんな所まで行けた野郎は初めてだよ。正直、いつ逃げ帰るのか、俺は今か今かと待っていたもんだがね』
『ルートは見定めてるんじゃなかったのかよ、この牛野郎』
『ゴールとなるマンホールが存在するのは確かだ。ただ、そこまで行けた奴がいないだけだ』
全く、食えない牛だ。自分らのルート開拓だか確認のために体よく利用してくれやがって。
それにしても食えない牛だなんて無価値もいい所だぜ。俺は切り返す。
『全く、物は言いようだな。本当にふざけた牛野郎だ。で、埼玉のお前の部下の方はどうなんだよ。今もしっかり渋滞に並んでるんだろうな?』
『その事なら問題はないさ。多少、進みはしているが、それはお前にとっても都合がいい事だろう』
『だったらいい。こっちは続けて地下を行く。約束だけは守れよ』
俺は吐き捨てるように言うが、牛浜の奴の答えは予想外のものだった。
『おい。お前、そのまま進むつもりかよ。今までは運も手伝ってそこまで行けたのかもしれないが、先に何があるかわからねえんだぞ、クレイジー野郎。有毒ガスにだって、何度も出くわしただろう』
『何だよ、おい。牛の癖に人類である俺を心配してくれるってのか?』
『この期に及んで舌の回る野郎だ。だったら好きにすればいいさ。ただし、どこで死んでも文句だけは言わない事だな』
『当然だ。健闘を祈れ』
『そうさせて貰おう、弦次郎』
牛浜は最後に微かに笑ったような声を出すと、どうも噂とは違う奴だとか何とか言いながら通話を切った。
気付けば俺も笑っていた。流星が浚われ、牛野郎に遭遇し、下水道を通り、リリーと出会って俺は今、ここにいる。巡り合わせってのは面白いもんだよな。
そんな風に考えていると、礼拝堂入口扉がばんっと趣のない音を立てて開き、親愛なる相棒こと、お下劣女が派手に登場する。
「そっちは上手くいったみたいだね、弦次郎くん」
両手一杯に買い物袋を抱え込むお下劣女はいつもの調子で言った。
「こんな時に買い物かよ。お前、歴史的瞬間を見逃しちまったぞ。勿体ない奴だな」
「その歴史的瞬間は弦次郎くんの伝記物語で読むから問題ないよ」
にっと笑って言うお下劣女は、さあ冒険の続きと行こうと続け、身を翻す。
俺は警察を呼んだのはお前かとか、リリーの奴はどれだけ勇敢な乙女だったかとか、そもそもお前は一体どこから出て行ったんだとか、色んな事を口から吐き出したかったが、ビッグな冒険を一つ乗り越えて機嫌も良かったし、そんな事は後回しにして急ぎ動くと、二人揃って懐かしきあの下水道へと降りていった。




