七人の白い謀反人
地下道へ戻った俺たちは急ぎ、準備を進める。
いつでも未来を信じる俺は前向きに。かつ迅速に。
ただし、隣にいるお下劣女は若干、呆れた風に。何か言いたげな事があるようにだ。
「弦次郎くん、その思い付きの作戦は上手く行く自信はあるの?この国には警察というものがある事くらい君でも知っているだろう」
お下劣女が手を動かすのも程ほどに口を開く。
「警察なんか意味ねえよ。あの子たちが自分でやる必要があるんだ。自分でやらなきゃいつまでも洗脳は解けねえ。謀反の御旗を掲げて己の未来を勝ち取るべき時が来たんだ」
「そういう話なら何となくわかるけどね。しかし弦次郎くんが彼女たち全員を引き取る訳にもいかないだろう」
「それこそ俺の仕事じゃねえ」
「彼女たちが傷付かないといいけど」
「馬鹿言うな、傷付く事も必要だ。痛みなくして人の成長なんてあるもんか」
この作戦は荒療治になるだろう。
正直言っちまうと、お下劣女の懸念もわかる。罪悪感がない訳じゃない。
しかし、それでも俺はやる必要があると思った。
俺一人が出て行って奴らを締め上げたり、通報の末に解決しても彼女たちの未来に繋がる事はない。洗脳教育を施された少女たちの無垢さに触れた俺には、それがはっきりとわかったからだ。
「全て上手く行くさ。たった一つだけ不安があるとするならば、午前四時に起床するって事くらいだ。早起きだけは苦手だからな」
「その心配はない。何が起こっても弦次郎くんはあたしが起こすから。例え寝たまま死んでいたって、叩き起こすからね」
荷物をまとめ、寝袋に潜り込む俺に、お下劣女は言った。
※※※
太陽の光さえ届かない地下においても朝は来る。
午前四時、お下劣女に叩き起こされた俺は用意されていた温い珈琲を一気に飲み干すと、一大革命作戦の決行に移るため、マンホールまで続く金属梯子を登っていく。
まあ作戦とは言っても、大した事をする訳ではない。囚われの乙女である彼女たち自身で大司教のマツモトなんとかってのを、ぶちのめしてもらうだけだ。
もちろん純潔の乙女である彼女たちに戦闘能力などあるはずもない。しかし、相手は男とはいえ、たったの二人しかいないのだ。何とでもなる。
それに、聞く所によると大司教の方は豚みたいに太ったジジイだという。
そういえば地下道に入る前は牛野郎の相手をしてやったっけ。今度は豚野郎の相手とは、運命ってのは不思議なもんだ。
下らない思い出に笑みを漏らしながら金属梯子を登る俺は、程なくして久しぶりの地上へと出る。
すると、そこには七人の白い少女たちが竹箒を握り、決戦の時を待ち焦がれるような顔を見せながら佇んでいた。
「おはようございます、弦次郎様」
一番の年長者であるリリーが皆を代表するように口を開く。
「よう、リリー。昨日はちゃんと眠れたか?いよいよ決戦の時だぞ」
「いえ、弦次郎様。何だか胸が締め付けられるように苦しくてあまり眠れませんでした」
「大丈夫だ。決戦の前日にはみんなそうなる。体中の神経が戦いに研ぎ澄まされていくからさ」
「弦次郎様もそうなるのですか?」
「いや?俺は神であり、男性様であり、君たちの貰い手であると同時に、日本史上稀に見る豪傑にしてタフガイだぜ。だから、そうはならない。鍛え方が違うんだ」
自信満々に言い切る俺に、リリーは目を輝かせ、周囲の少女たちはわっと沸く。
「それにしても弦次郎様が私の――
私たちの貰い手の男性様だったなんて、凄く驚きました。どうして今までずっと黙っていらっしゃったのですか?」
「そりゃあ十八になって卒業するまでは会ってはいけないという約束になってるからな。でも、それでも俺はどうしても君たちに会ってみたかった。我慢出来なかったんだ。それで、危険を犯してあんな地下道を隠れて通って来たんだが、君たちがあんな刑罰を日常的に受けているなんて、俺は、俺は……」
涙声を演じる俺の言葉を受け、リリーは目を潤ませる。
見れば周囲にいる少女たちも同様に目を潤ませている。
奴らからすれば純真に育て上げたつもりとはいえ、あんな酷い刑罰を行うくらいだ。純朴とは言え、彼女たちだって人間なのだし、今、見せている反応から察するに、以前から小さな疑念は抱いていたらしい事が窺えた。
語る俺も目を潤ませながら続ける。
「これは、俺と契約を交わしていた彼ら、大司教たちの許されざる裏切り行為と言える。よって、彼らの上に立つ者、貰い手であり、男性様であり、神様である俺は、極めて卑劣で意地汚い豚、大司教たちを懲らしめなければならないだろう。だが、初めから俺が出て行くのは作戦としては簡単すぎる。せっかくの機会だし、俺は君たちの勇気が見たい。だから、みんなには大司教の皮を被った悪魔、マツモト・聖・アヤトを打ち倒して貰う。これは、最も偉大なる悪魔退治にして、運命を決する聖戦である!」
こちらに注目する少女たちが唾を飲む音が聞こえる。その中にいる幾人かの少女が口々に言った。
「でも、強いと思います」
「弦次郎様、司祭のハギワラ様はこれまでたくさんの悪魔を倒して来たと仰っています」
「もしも負けちゃったら?」
一度として戦った事のない少女たちとしては、やはり不安もあるのだろう。
俺はそんな不安を払拭してやるかのように不敵な笑みを浮かべ、胸をはだけさせてから言葉を返してやる。
「大丈夫だ。絶対に負ける事はない。もしも危なくなったら、その時は俺が出て行くからな。見ろ、この筋肉に溢れる体が勝利を約束するって言っているぜ」
少女たちの何人かは再び息を飲むが、今度のそれが緊張からではなく、信頼からである事が伝わってくる。
やはり筋肉はいつでも人を裏切る事はない。おまけに言えば鍛え上げられたそれは思春期の少女の信頼をも得られるのだから、筋肉がもたらす効果は神の愛さえ超越すると言えるだろう。
準備は万端。戦意は上々。俺は満を持して作戦決行の合図をかける。
「戦乙女たちよ、これより悪魔制圧作戦を開始する!散開せよっ!」
はい、とよく通る声で返す彼女たちは、竹箒を持ったまま散り、いつものように朝の庭掃除を開始する。
きっとこれが彼女たちの最後の清掃活動になるだろう。
俺はほくそ笑むような格好でその姿を見守ると、続いて地上へやって来たお下劣女に、勇ましい目をしたままでいるリリーの二人を連れて、まだ薄暗い敷地の端の方へと歩いて行った。




