第二十二話 突入
それは、蹂躙だった。
宇宙船の甲板に直立し、エーテルの光玉を幾つも放ち、次々と敵戦力を撃破していく。
さながら、流星雨の中に突っ込んでしまったかのように、輝く星が敵を蹂躙していった。
「すごい……」
宇宙トルーパーのアルが言う。
「すごいだろ。これが俺の師匠、【星空の勇者】ユーリ・ルルールだ。
まさしく本物、だよ」
宇宙服も着ていないのに宇宙空間を飛ぶ宇宙船の甲板に立っているが、それはスターサファイア号のバリアによるものだ。
「立って戦いたいよね」
という師匠の注文に、アーシュが必死に頑張ってそういうバリアをつけたらしい。
なお普通はそんなふうに甲板に立って戦うという発想が無い。危険だからだ。
現実的なリスクより、浪漫を優先するその姿――実に素晴らしいと尊敬する。
「あれが【星空】……自分も聞いた事があります。
最年少の15歳で正式な勇者として認められた才女だと。なるほど、頷けます」
「して、勇者殿はどのような称号を」
「……」
そんなものはない。
そもそも見習いなんですけど俺。
俺がどう適当に誤魔化そうか考えている間も。
師匠はむちゃくちちゃ戦っていた。
もちろん、師匠だけの腕ではない。
乱戦の中を的確に舵を取り、宇宙船を縦横無尽に走らせ、軍の戦闘機のカバーに入る。
アーシュの操船技術も中々のものだ。
いずれ宇宙一の船乗りになってやる、と豪語していたが、決して口だけではない。
二人の参戦により、戦況は一気に逆転した。
「このまま一気に押し込むぞ!!」
ザナージが号令を発する。
だが――
「むっ」
モニターの中の【アジ・ダカーハ】に変化が起きた。それは――要塞全体を覆う光の膜のようなものだった。
それが、【アジ・ダカーハ】を球形に包み込む。
「何だあれは!?」
ザナージが叫ぶ。
「強力な宇宙バリヤを展開!」
宇宙トルーパーが言う。
「ええーいそんなもの!」
ザナージの号令で戦艦が宇宙ビームを放つ。
だが、それらは全て【アジ・ダカーハ】の宇宙バリヤによって打ち消された。
「クソッ……」
ザナージは忌々しげに舌打ちをする。
「これでは迂闊に近づけんぞ……」
宇宙戦闘機の攻撃や、戦艦の砲撃は宇宙バリヤに阻まれている。
だが――
「ショウゴくん、あれを!」
師匠が言う。
「あれは……!」
バリヤの向こうから、新しく発進した竜牙兵はそのまま抜けてきている。
ただ、障壁の向こうから、竜牙兵のビームは飛んできていない。
「都合よくあちらの攻撃だけはすりぬけるというわけではないみたいだね。だけど……」
「竜牙兵そのものは宇宙バリヤを素通りできる――ということか」
「物理はすり抜けるタイプの宇宙バリヤでは?」
宇宙トルーパーの一人が言う。だが、ザナージ卿が否定する。
「報告では、宇宙バリヤを抜けようとした味方の戦闘機が阻まれて爆発したとのことだ」
「……っ!!」
「だが、つまり結論として竜牙兵は宇宙バリヤを素通りできる」
だが、それがわかったところで……
――!!
「フン、気づいたか」
ザナージ卿が笑う。
そう。
ファットマン邸で、中に乗っていた竜牙兵を引きずり出して倒した竜牙騎兵。
それが、ここにある――!!
「おい、勇者!! 一度こちらに合流しろ。状況を立て直す」
ザン―ジが通信を送る。
それに答え、師匠のスターサファイヤ号は進路を変え、俺たちの戦艦のドックに降りてきた。
***
「突貫工事だけど、形にしたわよ」
スターサファイア号のパイロットでもある、宇宙ドワーフのアーシュ。
彼女が、件の竜牙騎兵を改造していた。
といっても、胴体に気密性を持たせただけの突貫工事だったが。
「助かるよ、アーシュ」
「お礼は雪エルフを助けることで返してね。あとお金」
「わかった、頑張るよ」
「ええ。操縦方法は――」
俺は突貫で教わる。
基本だけなら、そんなに難しくないようだ。
「こういう子って、機械っていうより魔導生物みたいなものだからね。
自律思考する自我はないようだけど、それでもちゃんと考えて動いてくれるわ」
アーシュは説明する。
考える、か……
さっき戦ったんだよん、こいつと。大丈夫だろうか。
大丈夫だろう。
***
「いいか、敵はおそらく二手に分かれる」
ザナージが言う。
「一隊はこのまま宇宙バリヤの中に待機させ、もう一隊がこちらに向かってくるはずだ」
その言葉の通り、竜牙兵の群れが宇宙バリヤを抜けてきた。
「まったく、なんで私が!!」
スターサファイア号を操るアーシュがぼやきながら、囮のように飛ぶ。
それに隠れて、竜牙騎兵に乗った俺と師匠が、速やかに宇宙バリヤを抜けて内部に潜入。
内部から宇宙バリヤを解除するという作戦だ。
迂回して飛ぶ俺たちの竜牙騎兵は、そのまま宇宙バリヤへと近づく。
もし、この機体は抜けても、中にいる俺たちが阻まれたら――
だが、その心配は杞憂だった。
そのまま宇宙バリヤをすり抜ける。
「よし、行くよ」
そして師匠は、手に持ったスイッチを押す。
爆弾のスイッチだ。ただし小型。
この竜牙騎兵にしかけらたそれは派手な音と光をたてて爆発。しかしダメージそのものはほぼ無い。
負傷した機体が帰還する――というふうに見せている工作だ。
いや、こいつらにそういうの必要かどうかはわからないけど、念には念である。
「そのまま、ゆっくり――」
俺たちの竜牙騎兵は、そのまま宇宙竜牙兵や宇宙透スカルドラゴンの群れを素通りし、そして。
宇宙竜牙兵たちが出てくる、【アジ・ダカーハ】の口腔へと突入した。




