ウソツキ
「…………二人っきりで会うのは、今日が最後……そういう約束だ」
「…………………………………」
僕の言葉に少しばかりの沈黙__いや、正しくは、カナタの声にもならない呟きだけが聞こえる。
その呟きが耳に聞こえるまでになるのは、時間で言えばほんの数分だっただろうが、僕が罪悪感を感じるには充分過ぎる時間だった。
「……どうして……やっと、会えたのにっ……! そうだ、星っ! 二人でした約束があるでしょ! え~と、え~と……確か、あそこらへんの星に二人で誓い合ったでしょ!」
カナタは街の遥か上空を指差し、思い出して欲しいと縋るように僕を見る。
「そんなことは、とっくの昔に忘れていたよ。きっと君に会わなければ、ずっと忘れたままだったよ」
嘘だ。二人だけの約束を一度たりとも忘れたことはない。
「なんで……そんな嘘を言うの……?」
「当り前だろ、僕達が子供の頃の話だよ? そんなものにずっと縋るほど僕は情け無い男じゃないさ」
これも嘘だ。カナタとの夢が無ければ、僕はきっと今頃無気力に生きていたはずだ。
「でも…………二人の星が…………」
「星って、何処にあるのさ?」
すでに街には夕日は差していなかった。
曇天はますます空を覆い、星など一つも見ることは出来ず、次第には雨さえも降り出して来た。
「この調子なら、星なんて一つたりとも見る事は出来ないね。……用が無いなら僕はもう帰るよ」
「まっ! 待ってよ!」
その場を去ろうと立ち上がった僕の胸に、またカナタが飛び込んできた。
「本当に……これっぽっちも覚えてないの? また、会えたなら、この木の下で…………キッ……キスをして、恋人になって、二人でこの世界を変えようって……!! だから、私、《救世連盟》に入ったの。学校では教えてくれない脳力の使い方を学んで、Dランクの私でも今の聖アメリア学園の入試に合格したの」
「……それが?」
「それがって……そんな言い方……。今だって、レイジア君には言えないけど、《救世連盟》ではすごい計画が進んでてね__」
「それは《低脳力応用成長化計画》のことだろ」
「ど、どうしてそれを……!! 今は誰も……特に王族には伝わりにくいコネクションで計画を広めてるのに!?」
カナタは信じられないと言った調子で目を見開いて僕を見上げるが、お構いなく僕は話しを続ける。
「あの計画は救世者が作った脳力の応用案を実行し、低ランクの脳力にも活躍の場があることをより多くの人に知ってもらうことが最大の目的だ。だが、低脳力者の人々の活躍の場は変わることは無く、職業変更を国に申請しても無視されて終わり。これでは、たとえ脳力が少しばかり応用が利くようになっただけで不十分だ。……違うかい?」
「……………………………………」
カナちゃんはその問いにただ、黙っていることしかできない。
なぜなら、一語一句全てが事実であり、変えがたい現状だから。
そしてそれは、僕が変えれなかった現状でもある。
その状況下でも雨は勢いを収まることを知らず、ただただ無情に、あの頃の僕の熱意すらも冷ましていくようだった。
そして、踏ん切りがついた僕は、服を掴んだままのカナタを引き剥がして距離を取る。
僕の服を掴むカナタの手には先ほどのような力強さは無く、まるで乾いたカサブタのように自然と僕達は離れた。
「…………じゃあ、僕はもう行くから。学校でも……もう関わらないでください」
「…………………………………………」
何も言わないカナタを一瞥して、僕はそれから一度も振り返らずに家路に着いた。
最後に見たカナタの頬に流れる雫が、彼女の涙でないことを願いながら。
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