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カナタ、参上!

カナタ、かっこいい。

 翌日、聖ガレアス学園の旧校舎。赤服の生徒たちは、白服の生徒たちによる攻撃を受けていた。


「どけよ愚民がっ!! ここはもうお前らの教室じゃねえんだよっ!!」

「大体、今までレイジア様のご好意に甘えていただけの低脳が、人なりの生活をしていること自体おかしいんだよ!!」

「まあでも、そのレイジア様もご病気で脳力が使えなくなったってアドラ様から聞いたし、これで本当の意味で邪魔者はいないな」

「物好きのレイジア様も、脳力が無ければ低脳……いや、無脳とまったく同じだからな」

 

 そんな声を尻目に、僕は未だにダルさの残る体を引き摺って、本校舎の屋上から様子を見ていた。


 そこに映る白服生徒の襲撃により、赤服生徒たちは校舎から出され、校庭に一つに固まって座らされていた。

 

 その赤服生徒の多くが、白服生徒との抗戦によって服が汚れ、傷を負っていた。そしてお互いに傷の治療をしつつ、白服の生徒たちの動向を窺っていた。


「良かった……やっぱりどれだけ探してもいない……」

 

 赤服の生徒の集団の中に、カナタの姿はいない。

 良かった。それだけでも救われた気になる。

 昨日、カナタが僕の部屋に訪れた後、どれだけ探しても『低脳力応用化計画』の資料が無かったからだ。


 あの資料は父曰く、”読むだけで低脳力者を強化することができる代物”。

 もし昨日の話しからカナタがそれを使って、何かアドラに反抗するかもと案じた僕は、それをいつでも止めるために来たのだ。


 だがどうやら、カナタの姿は赤服生徒の集団の中にはいないようだ。そう安心するのも束の間、即席で作られた壇上に立つアドラが現われた。


「ではこれより、赤服生徒達の校舎である別校舎と裏生徒会の爆破解体をする。理由は、赤服生徒実施で行われた改修工事に手抜き作業が見られ、その影響で本校舎に多大なる被害をこうむると考えられるからである。よって、次にこのような事態にならぬよう、聖アメリア学園の赤服生徒の受け入れ廃止と、赤服在校生徒の退学を別校舎の解体と共にする!」

 

 なっ!? そんなこと、ユリねぇから聞いていないぞ! 


 王族の会議で出した議案以上のことをするとなると、これは完全なアドラの独断先行だ。今からでも止めに――!


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 突如空高くから、僕にとって聞き馴染み深い声が旧校舎の校庭に降り注いだ。

 僕を含め、皆が空を見上げると、太陽をバックにして、その声の主はアドラの目の前に華麗に着地した。


 突然の闖入者ちんにゅうしゃに白服も赤服も関係なく慌てふためいていると、その中でもアドラだけが冷静にその闖入者ちんにゅうしゃに鋭く声を飛ばす。


「どなたですか?」

「私は聖アメリア学園赤服一年、そして、《救世連盟》一般メンバーの一人、カナタ・エイジア!」


 カナタ……!! 何で来たんだっ!? だがそれよりも、何故、そんなにボロボロなんだっ。

 

 全身ずぶ濡れの泥まみれ。赤い髪の毛は、野良犬のようにぼさぼさになって水が未だに滴っている。まさか……昨日の夜から家に帰っていないのか?


「ふん…………。そんな汚らしい格好で、この王族である私に何か用ですか?」

「うん、用ならあるよ。そんな理不尽な理由で、私たちの校舎を爆破なんてさせやしないっ」

「ほぉ、ならどうするのですか? 泣いて土下座でもします?」

「いいえ、あなた、私と勝負しなさい!」


 カナタの一言による反応は、きっぱり二つに分かれた。


 アドラ率いる白服生徒たちは、カナタのその言葉にある者は涙を流して、ある者は膝を叩いて爆笑した。そして、カナタの味方であるはずの赤服生徒たちは、突然現われたカナタへの淡い希望を捨てて、またしても黙って俯いた。


 だがそんなことも気にせず、カナタはただアドラだけを睨みつけて、声を上げる。


「勝負は聖アメリア学園式の一体一の勝負。フィールドはこの旧校舎前の校庭全域。私がアドラさんに勝ったら、旧校舎の爆破は無し! すぐに白服の生徒たちを連れて旧校舎から撤退してください!」


 目標を定めたようにアドラを指で指名するカナタ。だが指名されたアドラ本人は、そのカナタの強い意志すらも見下してあしらう。


「そんなしょうもない勝負を受ける理由が、我々にはありません。よってその勝負に価値はない。では、私はこれにて失礼――」

「そんなこと言っていいのかなぁ~~?」


 カナタのその挑発するような、それでいて意味深は言葉に、すでに背を向けていたアドラが首だけで振り向く。


「それはどういうことですか?」

「私……知ってるんだよ。あなたの正体。そして、あなたがここ最近で何をしてるのも」


 そう言ってカナタは何かの服の切れ端をかざす。すると、先までの余裕が消え去ったようにアドラは眼を見開く。


「貴様…………まさか、あの時…………!?」


 あのアドラが動揺している。一体、カナタはどんな秘密を握ったのだろうか。


「で、どうするの? 言っとくけど、これは切れ端の切れ端。まだ家に帰ればこれと同じ物があるから。もちろん、あなたが勝ったらこれも家にある切れ端も返すし、このことは誰にも言わない。どうかしら?」


 カナタが鼻を広げて勝ち誇るような顔にアドラは「クソアマが……」と悪態を付き、取り巻きの赤服生徒たちに首で指示する。


 取り巻きたちはそれに黙って従い、校庭の四隅にガレアス王国の旗をさし、校庭に座らされていた赤服生徒たちをまた無理やり校庭から追い出した。


 これで準備は完了。このまま行けば、カナタとアドラの両者が戦い、そして、カナタが殺される。聖アメリア学園式のルールにおいて、殺人は認められているからだ。


 聖アメリア学園式の勝利条件は、指定されたエリアから出ること、相手を戦闘不能にすることの二つ。そしてこの”戦闘不能”には、対戦相手の死亡も含まれるのだ。


 そして何か秘密を握られているアドラは、間違いなく、カナタを殺して証拠を隠滅しようとする。だから、今、僕が止めに行かなければいけないなのに。


 だが、体は震えて動こうとしない。

 脳力が無くなった今の無脳の僕では、あの場でカナタに何もしてやれない。それでも、それが分かっていても、僕はカナタを助けに来たはずだったのに!


 情けない……情けないのは、分かってる。腰抜けと蔑まれる覚悟はある。なのに――


「どうして……っ! どうして何も言わないんだっ!?」


 僕は先ほどから、グラナドラの柄を握ってクライにコンタクトを取ろうと試みている。だが、クライは昨日と同じように何の反応も示さない。


 早くしなければ試合が始まってしまう。そう思っている間に、その時が来てしまった。


「それではお二方、こちらに来ていただきたい」


 アドラとカナタは、審判役の生徒会副会長を挟んで、校庭の中央に集まる。そこからお互いに離れて、各々の位置に立つ。


 その光景を校庭から離れた所から赤服生徒たちが固唾を呑んで見守り、それとは対称的にアドラの勝ちを確信している白服生徒たちがカナタに野次を飛ばす。


 完全なアウェイ。騒がしくなるギャラリーたち。だがカナタは、そんなモノには目もくれず、自信のある笑みを浮かべた。


「夢を見る価値すら無い低脳風情が、この私に大口を叩いたことを、あの世で後悔させてあげましょう」

「そんな低脳にこれから負けるあなたは、一体、何になるのか? 試合が終わったらちゃんと聞かせてねっ」


 両者は互いに言葉のジャブを交わすと、その校庭の中央で生徒会副会長が大きく手を挙げ、宣言する。


「では、これより生徒会長アドラ・A・ガレアス対《救世連盟》カナタ・エイジアによる模擬戦闘を行います。両者、準備はよろしいでしょうか?」

 

 その問いかけに二人は首を縦に振り静かに肯定する。


「それでは…………試合開始っ!!」

次回、カナタが戦うよ。

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