新しい時代
新界暦。
それは人の脳の中身を完璧に理解した事により、人間が超常の力を手に入れた時代である。
脳組織の謎の大部分であった脳幹を発達させることにより、人間が普段の生活にロックを掛けていた力に直接触れることより手に入れた力を『脳力』と呼び、それを数値化した単位『IQ(Identity Quality )』の強さで判断される『ランク』を診ることで人は自分自身の価値を理解することになった。
だが、それは良い事もあれば悪い事もある。
人生がIQの高さで決まってしまうと言われ、自分の力を過信するものも現われれば、力の無さに嘆き悲しみ劣等感に押しつぶされる者たちが出てきた。
そんな世の中で一番の悲劇は、強い者たちが弱い者たちを虐げる事への喜びを感じてしまったことだ。
その結果、世界中のどの国でも、高いランクを持つ者達である『高脳者』が低いランクを持つ者達である『低脳者』を奴隷のように扱い、扱き、そして棄てるといった行動が肯定視されるようになった。
低脳者たちも最初は自分達の待遇の変化を求めて戦ったが、無駄な足掻きであった。
それほどまでにも、高脳者と低脳者の差は天と地ほどだったのだ。
そして、それはそのまま現在の新界暦六百十五年になった今でも変わらず続いている。
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新界暦六百十五年。今日は国立聖アメリア学園の入学式。
「新入生代表、レイジア・A・ガレアス」
「はいっ」
学園長に名前を呼ばれ、僕は自分の席から円筒状の大ホール中央にある舞台に上がり、学園長の前で新入生代表の挨拶をする。それが一通り終えると、僕は後ろにいる学園長の方に向き直る。
「入学おめでとうレイジアさん。
学園長として、母として、とても喜ばしく感じております。その調子で、この学園の存在をこの国全土に知らしめてください」
僕は肩を竦めてやる気の無いように答えてみる。
「あまり気乗りはしませんが、まぁやれるだけやってみます」
学園長である母は何がおかしいのか、笑いを堪えきれなかったようでクスクスと笑いだす。
「どうかなさいましたか? お母様」
「失礼しました。ですが、あのレイジアさんがそんなことを言うのに、あまりにも違和感を覚えてしまって」
普段の様子を僕は改めて思い返してみると、確かに僕がそんなことを言うのはおかしいのかも知れないが、本心だから仕方が無い。
まだクスクスと笑う母に、もう一度一礼をして踵を返すと、目の前には拳大の火球が迫ってきていた。
そんなものに当たれば、当然、顔面が焼け爛れることになりそうだったので、僕はそれを難なく左手で掴んだ。すると、先程まで僕に向かっていた火球は少しの火の粉も残さずに消え失せた。
一息ついて、僕は火球が飛んできた方角を見ると、一人の赤い制服を着た生徒が僕を睨んでいた。
「王子様よぉ。そんなにやる気がないなら、とっとと座ってくれませんかね? いつまでもペラペラと喋ってないでさぁっ!!」
あからさまな敵意を剥き出しにする赤服の生徒は、近くにいた教師達に即座に取り囲まれ、取り押さえられそうになるが、それよりも早く自身の手の平に圧縮した炎を射出し、その勢いで僕に向かってくる。
対して僕は特に焦ることなく、ゆっくりと右手の掌を向かってくる赤服の生徒に向ける。
「さっきのは君の炎だったんだね。じゃあ、返すよ」
赤服の生徒は僕の右手から現われた先ほどの火球の倍ある大きさの炎に焼き尽くされ、一瞬の内に火だるまとなる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?」
火だるまになった生徒は、床に墜落すると地面を焦がしながら悶え苦しむ。
それを先ほどその生徒を取り押さえんと集まっていた教師の一人の治癒系統の脳力により、火傷の回復を受けているが、未だに体をピクピクさせており、まるで干上がった湖に現われた魚のようだった。
「あ~……。ごめんね。他人の誠意には全身全霊で返せって父上に言われているから」
もちろん、誠意を返すの意味がそういう意味ではない事を僕は知っている。




