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初めての演説

ツイッターもよろしく!

ちょくちょく頑張ります!


 『学園を乗っ取れ』


 そう言ったクライとの対話を終えた僕は、その後クライに言われた通りの行動を開始した。


 そしてその手始めとして僕は放課後、再び学園に戻り赤服生徒が使っている旧校舎に来ていた。

 

 基本的に僕が通っている聖アメリア学園は低脳力者も受け入れている国の中でも数少ない学園だが、その実体はパンフレットとは違う明らかに劣った設備に赤服生徒用の教職員の人手不足などの問題を抱えている。これでは到底、低脳力者を教える学園とは言えない。


 それでも学園が低能力者を迎え受ける理由は、貴族や高脳力者達の身分を低脳力者達に知らしめる為である。

 

 その証拠とも言えなくも無いが、僕が旧校舎の中を進む度にそこら中の欠陥が目に付く。

 校舎自体もとても古い所為かドアは錆付いていたり、立て付けが悪くなっていたり、廊下から吹き抜ける冷たい風が僕の体を縮こませた。こんな環境でカナタが授業をしていると思うと、自然と拳を握る手に力が籠もる。

 そんな事を思って校舎を歩いていると廃れた教室が並ぶ中、唯一綺麗に清掃された『1-3組』と書かれた標識の教室に到着する。

 

 授業が終わったにも関わらず、多くの赤服の生徒たちの声が聞こえてきた。

 

 僕は教室の扉の前まで来ると、先程言われた指令の確認をクライに取る。


「おい、本当にあんなこと言って大丈夫なんだよね?」

『大丈夫だって。昨日、お前と考えた俺達の作戦だぜ? ここの連中も納得するに決まってるさ』


 不安げにしている僕が聞くと、クライは自信満々といった感じで即答する。


『さぁ! 早く扉を開けて飛び出そうぜ。俺様たちの栄光ある未来に!』


 少し大げさだなと感じつつ、僕は不安な気持ちを払拭するようにドアを思い切り開いた。

 突然の来訪者に教室の視線は一気に入り口の僕の方へ向けられ、僕の姿を見た生徒たちが口々に騒ぎ出した。

 僕はそれらの声に耳を傾けず教壇の上に昇って教室内を見回した。もう既に帰った生徒もいるのか教室の中にいる赤服の生徒はざっと見で十二名程。その中に僕は、僕と目を合わせように俯いたままのカナタの姿も見受けられた。


 もう少しの辛抱だから、我慢しててね。


 心の中でそっと呟いた僕は、一度深呼吸をしてから、ざわつく教室の空気を裂くようにハキハキとして声で赤服の生徒たちに話を始める。


「こんにちわ。僕はレイジア・A・ガレアス。知らない人はいないと思うけど、この国の第二王子で王位継承権第一位の男だ。今回は君たち赤服の生徒……いや、『救世連盟』の人たちに頼みたいことがあって来ました」


 僕が一区切り喋ると、一人の男子生徒が王族の僕に怯む事もなく挙手した。


「レイジア様。僕は一応この中で『救世連盟』の支部幹部をしている者です。王族であるあなた様が、一体、僕たちのような矮小な者に何をお望みでしょうか?」

 明らかな皮肉交じりの男子生徒の質問に剣の中のクライがゲラゲラと笑い出す。


『げはははははっっ!! こいつ、見た目の割りに肝っ玉据わってやがるな!』


 それもそのはずだ。

 この生徒は昨日、カナタの服を毟り取ったガラの悪い白服生徒に、唯一立ち向かって行った生徒だ。

 結局はクライが僕の体を使ってカナタを助けた訳だが、不利な戦いに挑む勇気のある人の肝が据わってない訳がない。


 だから、彼が僕に一番早く質問をしてくる事も僕は容易に読めた。


「そんなにご自分たちを卑下なさらないでください。この吐き気も催しそうな差別の中、仲間のために立ち向かっていく姿に昨日、僕は感銘を受けましたよ。フォル・リーベルト君」

「っっ…………!? な、なんで俺の名前を…………!?」

「いえ、そんな対した理由ではございません。これからお互いに助け合っていく仲間になる人の顔と名前を覚えることは当たり前のことではありませんか」


 なんてのは嘘だ。


 念のために、この学校に入学した『救世連盟』のメンバーの名前は全て把握していただけの話だ。その数は、赤服クラスの生徒数と同じ三十二人。覚える事は楽だったが、これを使おうと思ったのはつい先程クライのアドバイスを聞いてからだ。


 高脳力者の王族の僕がいきなりクラスに行っても話なんか聞いては貰えないだろうとクライに言ったところ、クライは『仕事仲間にしても友人にしても恋人にしても、まずは相手に自分が相手に興味があるのかをアピールすることから始まる。それだけでも印象は良いものに変わる。』と、言われたためだ。

 その結果、僕に名前を呼ばれたフォル君は嫌悪感を示しながらも、こちらに敵対するような身構え方はしなくなっていた。


『よし、これならとりあえずは目的を伝える事ぐらいはできるだろう。とりあえず今回はそれだけ伝えて帰る。分かったな』


 クライの応答に僕は軽く鞘を叩いて返事をする。改めてカナタを含めた赤服の生徒たち数名を見下ろして再び話しを切り出した。


「今日こうして僕がここに来た目的とは、皆様の《救世連盟》の活動拠点として新たな生徒会《裏生徒会》を設立するためです」


 僕が目的を告げた瞬間、教室のざわめきはさらに増し、お互いに聞き間違えたのかどうかを顔を合わせて確認しあっていた。

 

 当然だ。僕もこれをクライに言われた時は心底驚いたのだから。

 僕は生徒たちが動揺するのもお構いなしに言葉を続ける。


「このまま進めば近い未来、この国の王は継承権第一位の僕に引き継がれるでしょう。ですが、今のこの国の制度では、僕がこの国を統治する頃には自分勝手で傲慢な貴族が圧制を敷く、そんな世の中が予想されます」


 僕の演説を聞いていた赤服の生徒の数人が頭を縦に振って肯定する。


「その未来の国の縮図が僕はこの学園と考えています。生まれ持った脳力や家柄だけを振りかざし、貧しい者や弱き者に暴力を振るう、そんな事は日常茶飯事です。今日ここにいる皆さんも見たでしょう。朝のあの白服生徒が振るった暴力をっ!」


 そこまで言うと教室のどこかから「お前もそんな変わらないだろ……」と言う声が聞こえてきた。

 それを波紋にしてその声の近くにいた生徒たちにも白服の僕が同じ白服を貶めている言動に違和感を持ち始めた。


『問題ないぞレイジア。このままの路線で話しを続けろ』


 言い淀んでしまいそうになる僕をクライの言葉が繋いでくれた。僕はそのまま言いたかった事を伝えていく。


「ですが皆さんは違います。あなた方の結束力、統治力には僕は感動に近いものを感じました。その力を生かせる場を若い頃から育み育てる事こそ、僕は将来この国に必要なものだと確信しています僕と新たな国への力にして欲しい。僕と一緒に裏生徒会の運営を《救世連盟》のあなた方とやっていきたいっ」

 

 この僕の発言にまた赤服の生徒達は驚きを隠さず、先程よりも騒がしく動揺する。

 それもそのはず、この聖アメリア学園の生徒会の規則は全てが白服生徒達の都合で設定されているため、その規則を赤服の生徒が破らざるを得ない場合がある。

 

 昨日の朝からの勧誘もその一つであり、赤服の生徒は《救世連盟》以外の活動である部活動や委員会活動も同様の理由で禁止をされている。

 もし、裏生徒会が設立する事が出来れば、今まで困難だった《救世連盟》の勧誘や部活動や委員会活動など、学園行事に関する活動も活発的にすることが可能になる。

 だが、ここまで聞いても赤服の生徒達の不安や不信感を感じる声が聞こえる。


「それが出来ないから、今まで困ってたんじゃないか…………今さらそんな事が可能なのか?」

「でも、王族のレイジア様が宣言して頂ければ、それだけでも変わるんじゃないか?」

「そのレイジア様だから信じられないんじゃないか。今まで、どれだけの俺達の同志たちがレイジア様に補導されたと思ってるんだよ!」

「そうよね……。今まで、散々私達の邪魔をしてきたレイジア様が、今さらになって私達の手伝いをしたいってこと自体おかしいのよね」

「何か裏がありそうで……怖い……」

「やっぱり、信用しちゃだめなのかな……?」


 しまった。今までの実験がこんな形で裏目にでるとは。

でも仕方が無い。

 とにかく今は活動拠点を作る事が今回の目的だ。信頼はこれから築いていけばいいんだから。今は彼らに話を聞いてもらっただけでも及第点だろう。


「今回はお話だけ聴いていただけでも良かったです。これ以上の事は後日、僕が生徒会との話しが終わり次第に――」


 その時だった。

 突如、レイジアたちのいる旧校舎にものすごい振動が襲った。


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ななな、な、何だよおおおぉぉぉぉぉ!?」


 横揺れの振動。地震ではありえない衝撃と左右の揺れで、耐震工事すれも怠っていた旧校舎の床や壁や天井にはヒビが走っていき、建物の命が磨り減っている証拠のように天井から土屑が舞う。

 突然の衝撃で生徒の殆どがパニックに陥った。すぐにフォル君や他の生徒たちがみんなを落ち着かせようしていた。


『おいっ、一体何が起きたっ!? なんか視界がグラグラしやがるぞっ!?』


 グラナドラの鞘の中にいるクライには今僕たちのいる校舎が揺れている事までは分かっておれず、状況を正しく見れていないようだ。

 なればここは、僕がやるしかない。


「…………ふっ…………!!」


 僕は左手を床に付けて《生殺与奪ギブ・アンド・テイク》のIQを使用。旧校舎に起こる振動や衝撃を全て吸収していく。すると、次第に揺れは収まり、ヒビの進行や天井の土屑の舞いも止まる。


「み、皆さん! 大丈夫ですか!?」

「……はっ、はい……なんとか、怪我人はいません……」


 そう答えたフォル君や遠くで女の子同士で固まっているカナタを見て、本当に怪我人がいない事を確認する。


「よ……良かった……」

『何が良かっただ! 外を見て見やがれ!』

 

 クライに言われて外を見渡すとそこには白服の生徒たちが何十人もずらりと隊列を組んでこちらに手をかざしていた。

 そしてその隊列の一番先頭にいる男を見て、僕は目を見開いた。


 それは僕の実の兄にして、ガレアス王国王位継承権第二位の男。そして現生徒会の生徒会長アドラ・ガレアスだった。

読んでくれてありがとう! 

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