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12/33

女性


 朝の騒動から、寝つきが悪かったのかそれともクライが体を乗っ取ろうとしたからか理由は定かではないが、僕は珍しく盛大に寝坊をしてしまった。


 時間も無いため朝食も取らずに僕を起こしに来てくれたユリねぇと共に学園に向かっていた。

 

 「ごめんねユリねぇ。僕が寝坊したばっかりにこんなギリギリの時間に登校させちゃって」


 僕が謝ると、ユリねぇは軽く笑いながら応える。


 「もう、そんなことでお姉ちゃんに気を遣わないでいいのよ? 私は好きでレイジア君と一緒に登校したいんだから」


 ユリねぇの言葉に嘘はなさそうで、ぼくのせいで朝食も取れなかったのに、隣で機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら歩いている。


 となると、今僕が対処すべきは__


 『おっほぉぉぉぉぉっっ! いいねいいね! さすがは俺様の遺伝子を持つ娘なだけあって胸もでけぇ! 揉んだらきっと手への吸い付きもいいんだろうなぁ~~!』


 先程から僕の腰元でユリねぇに聞こえないことを言いことにセクハラ紛いの発言を繰り返している変態魔剣のクライをどうにかした方がいいかも知れない。

 家に置いて行くのも気が引けると思ったからわざわざ鞘をベルトに通してまで連れて来た僕がバカだった。


 『おいおいクソガキ! お前こんな姉貴がいるならもっと早くに言えよな~』


 「…………おい、あんまり話しかけないでくれよ。君の声は僕にしか聞こえなくても僕の声はユリねぇには聞こえるんだから……」


 僕はなるべくユリねぇに聞こえないように、剣の柄を撫でながら小さな声でクライに忠告する。


 クライ曰く、クライの声が聞こえるのは、僕の体の乗っ取りに失敗した結果『融合』という形に落ちついた僕にしか聞こえず、クライの本体であるグラナドラが僕の体の一部に触れている時、僕がクライの声を聞くことができるらしい。


 クライはそれを良いことに登校している学生や仕事に向かう女性にいやらしい視線をぶつけまくっていた。


 『おいクソガキ! 見ろよあの女、めちゃくちゃスカート短けぇぞ! 後もうちょいでパンツが見えそうだ!』


 『おいクソガキ! お前の姉ちゃんほどじゃねえけど、あそこの姉ちゃんも胸でけえな! あの二つのお山が歩く度にプルンッ! プルンッ! てことは相当なでかさだぞ!』


 『おいクソガキ……あれくらいの年の子もいいなぁ~。いや違うぞ! なんか……和むっていうか、可愛がりたくなるとか、そんな感じがしていいよな!』


 『おいクソガキ……人妻ってなんか手を出しにくい所が良いよな……』


 その女性の範囲の広さにも呆れるが、これが僕の腰にいるというのも本当に苛立たしい。


 どうやらクライは鞘や刀身の表面から見える景色を見ることが出来るらしく、何千年ぶりの外の光景……女性達を物珍しく見て興奮しっぱなしだ。


 次からは絶対に家に置いていく。そう決心している僕の心境など知らず、外を見るのを中断してクライから僕に話しかけてきた。


 『おいクソガキ? どうした、急に落ち込んで。悩みなら聞いてやってもいいぞ?』


 「……悩みも何も……今僕は君への対処について考えているんだ……本当に心配してくれてるなら君が少し黙るだけで僕の気はだいぶ晴れるよ…………」


 僕が心底疲れたように言うと、そんな事もお構いなしにクライは軽く受け流す。


 『そんな邪険にするなよ~。俺様たちはもう一心同体、運命共同体なんだから』


 それなら尚更のこと、僕の機嫌を損なわないようにしてほしい……。


 『にしてもお前の姉ちゃん、何を食ったらあそこまで大きくなるんだろうな~? …………一回だけでいいからあのたわわなおっぱい揉んでみてくれよ』


 「何で僕が実の姉の胸を揉まなきゃいけないんだよっ!」


 「えっ…………!?」


 つい声を荒げてしまったせいでユリねぇに不審な目で見られてしまった。


 「ち、違うんだよユリねぇ! その……え~と……ほら! 最近ユリねぇって学園に通うために凄く勉強してたじゃないか! だから、何かマッサージでもしてあげれたらなって思って!!」


 「……………………………………………………」


  なんとか苦し紛れ気味に言い訳を言うが、ユリねぇは未だに表情も固まったままである。

 ここは素直に馬鹿なことを言ったと謝ったほうがいいかと諦めていると、ユリねぇは何故かモジモジして恥ずかしいそうに呟く。


 「しょ、しょうがないなぁ~レイジア君は……。じゃあまた今度頼もうかな……色々と……」

 なんとか誤魔化せたことに感極まった僕はほっと胸を撫で下ろすと、一気に緊張の糸が切れた。


 「う、うんっ! 任してよユリねぇ! ユリねぇが気持ちよくなれるように、僕がんばるからさ!」


 「き、気持ちよく……!? …………その節はお手柔らかに……オネガイシマス……」


 そう言うと、ユリねぇは先ほどよりも更に顔を真っ赤にするが、そんな事よりも何とか誤解は解けたことに僕は完全に油断した時、突如、異変が起こった。


 僕が再びクライに話かけようと剣の柄に触れようと右手を動かそうとしたが、何故か右手は動かなかった。


 その右手は僕の意思とは関係なく手を前に伸ばしたかと思いきや、肩と腕の関節を器用に曲げ、隣で歩いているユリねぇの左の乳房を鷲掴みにした。


 「ひっ……ひんっ……!!」


 それだけに止まらず、さらに右腕は指が食い込むほど強く、深く、山を崩す勢いで揉みしだき始めた。

 身内の僕でも聞いた事の無いような媚声を上げながらユリねぇは右手に蹂躙される。


 頂を器用に摘む、強引に揉みしだく、パンをちぎるように引っ張る、それらの光景に見入っている自分がいることに気付くと、僕は自由な左手で自分の頬を叩き正気を取り戻す。


 そして即座に脱力していた右手に再び力を入れて引き剥がすようにユリねぇの片乳から右手が離れた。


 僕は恐る恐るユリねぇの顔を見るとユリねぇは耳の後ろまで顔を赤くして今にも泣きそうに声を擦れさせていた。


 「ご、ごめんユリねぇ! 今のは事故というかなんというか、何がなんだか僕にも分かってなくて…………!!」


 「や……やっぱり……わた……そ……り……」


 「え……なんて? ユリねぇ、大丈__?」


 俯きながら掠れる声で呟き続けるユリねぇを心配して僕が声を掛けようとした時、ユリねぇは脱兎の如く全力で叫びながら遠くの校舎に走り出した。


 「やっぱり私にはそんなこと無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 ユリねぇの聞いたこともない絶叫に僕が唖然としていると、この問題を起こしたことを思わせる言葉と共に顔があれば涙を浮かべて感動してそうなくらいにクライが言う。


 「やっぱり、巨乳は最高だな……。俺様……転生して来て本当によかった……!」


 「頼むからもう一度死んでくれ、この変態魔王!!」


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