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立案者


カナタと別れた後、土砂降りの中真っ直ぐに自宅の邸宅に帰った僕を出迎えた使用人の声を無視して僕は自分の部屋のベッドで横になる。

 

 雨水でシーツが濡れていくのを感じながらもお構いなしに僕は目を閉じて後悔する。


 「……何で会ってしまったんだろう」


 カナタと会わなければ、こんな気持ちになることはなかったはず。


 そもそも、低レベルの生徒と共学と知っている母の学校に行かなければ。


 そもそも、僕らがお互いに夢を見なければ。


 そんなことが僕の頭の中で巡っては交互に消えていく。


 そんな中、またあの浮かび上がるような声も僕の気持ちと交互に巡ったように感じた。


 『そんなこと言って、今日はむちゃくちゃ楽しんでたように見えたが?』


 __そんなことはない。むしろ彼女に会わなければ、僕達は自分達の平穏を今日以上に楽しんでいたはずなんだ。


 『そんなのやってみなきゃ分からんだろうが。お前はただ自分の都合や立場を正当化させてあのカナタとかいう女を遠ざけたかっただけだろう?』


 __違う……そんなことはない。どこの誰か知らないが適当を言うな。


 『適当なんかじゃない。そして、お前はこう考える。やっぱり住む世界の違う奴とは付き合える訳がない、だからしかたない、僕は悪くないと自分自身に言い聞かせて、そう思い込むんだろう?』


 「…………違うって、言ってるだろ……」


 遂に僕はその幻聴に答える始めた。


 自分でもおかしいことは重々承知だったが、今はそんな常識的なことすら考えられないほど僕は弱っていた。それでもなおこの幻聴は苛立いらだちを隠すことを知らず僕を謗りそし続ける。


 『そうやって物事と正面切ってぶつかって来なかったことが今のお前の現状だ。今更後悔しても遅いことを知れよクソガキ。その道を選んだのは、あの女が言う約束を破ったのは、他でもないお前自身という事実と向き合えよ』


 「うるさいっ!!」


 部屋に爆発音が響き渡り、そこで僕は正気に戻った。


 気付けば僕は自分の脳力である『生殺与奪ギブ・アンド・テイク』で昼に少女を助けた時のように、右手から生命エネルギーを衝撃波として撃ち出していた事に気付く。


 その衝撃波に当たった机は爆ぜ、引き出しに入っていた書類の束が床のあちこちに散らばった。


 「…………」


 しばらく無言で考えてから、そのまま散らかしたままにする訳にも行かず散らばった書類を集めようとベッドを降りた。


 そしてその中の一枚の書類を手にして、僕の動きは止まった。


 その書類はある計画の立案書の一枚で計画の名前とその立案者の名前が記載してあった。


 《低脳力応用成長化計画 立案者 レイジア・A・ガレアス》


 この計画は《救世連盟》の指導者である『救世者』として僕が五年の月日を掛けて作った計画の立案書だった。


 * * * * *


 計画を練るキッカケは、カナタが引越してから低脳力でも何か応用や身体の工夫などで、国の検査以上の結果を生むことができないかを模索している時にユリねぇのネグレクトが発覚し、僕がユリねぇの脳力の練習台になった時に思いついたものだ。


 ユリねぇの脳力は‘‘重力を操るもの‘‘だったのだが、その過程でユリねぇが重力を操る方法が重力ではなく、一定エリアの‘‘あらゆる斥力の一部を操ること‘‘ということが判明した。

 

 その時、僕は思ったのだ。これはユリねぇに限った話ではないのではないかと。

 

 それを確信に変えるため、僕は様々な脳力の実験をする為にまず国の幹部と母を味方に付け、王位継承権を実兄あにから奪った。


 母はランクもIQも優秀な僕を猫可愛がりしていることは知っていたし、僕の後ろ盾として王女である母がいることで僕に甘い蜜を求めて群がる幹部連中を味方に付ける事が出来たのでそれは案外簡単だった。


 僕はその権限を使い、様々な脳力の研究のために低脳力者たちのデータを集め始めた。


 その過程で集まった低能力者の団体を僕は《救世連盟》と名づけ、僕とカナタの理想を目的として掲げた。


 ‘‘低脳力者でも生きれる社会にする‘‘という目的を。


 その目標のおかげか、様々な脳力を持つ低脳力者の人々が《救世連盟》の活動を行うにあたって主要メンバーの脳力を検査したり、時には僕も王族の義務と称して低脳力者が起こすテロの取り締まりを行い、組織の内側からも外側からもデータを集めた。


 その結果、集まったデータは膨大になりその用途や脳力の詳細から、やはりユリねぇと同じで低脳力者の中で脳力の効果が誤認されており、使い方次第でその脳力の可能性を広げることの立証をすることに成功した。


 そして、その研究結果を娘や妻などの親族に低脳力を持つ国の幹部やその関係者に極秘で送り、返答次第で計画は本格的に始動する__はずだった。


 父であるリバル・A・ガレアスが僕が研究結果を送った幹部全ての部署を異道させ、直接政治に関わらせないようにするまでは。


 それを知った僕が、父に直談判をした時の言葉は一言たりとも忘れたことはない。


 * * * * * 


 「父上! 何故いきなり国の幹部達の異動などという馬鹿げた事をしたのですかっ!? それにより出来た、我が国の新たな政治体系に不安を持つ民衆の声が聞こえないのですかっ!?」


 荒げた僕の声とは正反対に、気高さを保ったままの厳格な声が王室に響く。


 「それはお前が王族らしからぬ無駄なことをするからであろう。一人で何をこそこそやっているか調査させてみれば、まさかテロリストの手引きのような真似をしているとは…………」


 《救世連盟》の活動が王室まで知れ渡っていることに面食らう僕だが、それでも言うことは変わらない。

 僕は意志を強く持ち、父に向き直る。


 「お言葉ですが父上。僕はそのような愚行を行ったつもりは__」


 「黙れっ。結果、この国に突如現われた『救世連盟』なるお前の組織は、低脳共には本当の救世主のような扱いを受け、さらには『救世連盟』を名乗るテロリストの増加により、我が国の治安は他の九カ国に比べても最悪な治安に成り下がった。違うか?」


 確かな事実の前に僕は押し負けそうになるのを堪えて抗議を続ける。


 「確かにそうかも知れません……ですが、それでもそのテロリストは全て僕が排除し、罰を与えています。結果的には国には大きな損失は無いはずです!」


 「テロが起きていること自体が問題だと言っているのがわからんのかっ! お前こそ、民の声が聞こえていないのではないか?」


 「その声の多くは自分の身を守る事さえできない低脳力者ばかりですっ! そんな力の無い国民の為にもこの研究結果を発表して実行すれば、もう誰も弱い人々はいなくなり、治安も国の過去最高レベルまで引き上げることができる筈です!」


 「そうなるかもしれない。だからこそ、この研究結果は危険なのだ。賢い我が息子よ、お前ならわかるであろう。これには読むだけで低脳力者たちの脳力を底上げできるほどの力がある。これが低脳力者たちの手に落ちれば、それだけで我が国の、いや、各国の政治体系は今以上に混乱し、最悪の場合、逆転する事も考えられる。それは全ての者に等しく平和になる事だろうか?」


 変わらぬ声音で、まるで諭すように、父は王として僕の計画による国の影響を分析する。


 だが、それは逆に僕の怒りを引き立てるだけだった。


 「それは王族や高位脳力者にはマイナスにしかならない……今の立場が変わり、貴族制が廃止されるかもしれないと言いたいのでしょうっ! 結局、父上は自分の事しか考えていないではないですかっ!?」


 「お前はもっと冷静になるべきだと言いたいんだ。決して力を持たせることが良い事ではないのだ」


 「では、力無き者達は永久に強き者達に搾取され、仕事や自分の環境すら選べず……想い人とも一緒に居る事が出来ないのが当たり前で良いと父上は仰りたいのですかっ!?」


 そこまで聞いて、やっと父は納得が言ったように黙り込み、一拍置いて淡々と言う。


 「…………あの娘の為か。それなら、尚更許さん。私がお前に許すのはお前が未だにしている《救世連盟》という組織を使った豪勢な革命ごっこだけだ。それ以上の特権を私はお前に与えることは一生ない。この研究結果も没収させてもらう。以上でこの話は終わりだ。今すぐ部屋に戻れ。この非国民の親不孝者がっ!!」


 * * * * *


 三年前の僕が十二歳のあの頃。

 それ以来、国王である父とは書面ですら言葉を交わした覚えはない。

 

 僕は王族だから、国のトップの血を継いでいる。だから、この国を自分で廻していける。誰もが幸せになることが出来る世界を作れると本気で思っていた。


 だが、それは思い違いだった。


 僕はあの自己中心的な王の息子なのだとあの時に思い知らされた。


 あの王の血は、とても醜い。


 だから、僕の血も醜いに決まってる。


 だから、僕もきっとあいつと同じような政治をするに決まっている。


 だから、僕にはカナタを救うことはできない。苦しめるだけだと諦めたんだ……これを思い込みだなんて

一度も思ったことなんてない…………無いけど。


 もしこれが自分で正当化した思い込みだとしても、そうだとしても__


 「そうやって生きていかなきゃいけないくらいに、僕は……無力なんだよ……」


 結局、僕は書類を拾うのも億劫になってしまい、うつ伏せにベッドに飛び込んだ。


 僕の掠れるくらいに弱弱しい反論は頭の中の誰かには届かなかったのか、その後、あの声は返って来ることはなかった。


 まるで何かに満足してどこかに去ったようにも思えたが、自分の心に反論するのは自分自身しかいない。きっと僕は、今までずっとそういう反対の僕の気持ちと言い争っていたんだな。


 そう考え始めると頭の中には自分に対する自嘲しか浮かばなくなりそして__


 (本当に……ぼ、く……って、やつは…………バカ、ばか……し……い…………)


__そこまで考えて、僕はいつの間にか目を閉じ、まるで死ぬように眠った。


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