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入学式から、早くも1ヶ月。
私の生活は目まぐるしく変わって行った。
まずは、漫画のヒロインの明城いずみと仲良くなった。これは原作通りだ。
そして、いずみと仲良くなるということはすなわちいずみの幼なじみである清家怜央とも知り合いになる。
私と、いずみと清家くんは同じクラスでC組。伊月は別のクラスでA組。これもクラスまではさすがに記憶にないがメンバーは原作通り。
そして伊月とは入学式のこともあってか気まずいままあまり話さなくなってしまった。
「ねぇ、萌乃聞いてた?」
「え?なにいずみ」
「やっぱ聞いてなかったんでしょ〜!王子の話」
「王子ぃ〜?」
「A組の桧山伊月くん!通称王子!色素の薄いふわふわヘアに優しそうで端正な顔立ち、背も高くてスラッとしてて彼を王子と呼ばずになんと呼ぶ?」
わあ、物凄くわかりやすい説明をありがとう。
いや、そうじゃなくて。
「って、私たちのクラスの女子が騒いでたんだけど、萌乃気にならない?一目見に行ってみたくない?」
「うーん…」
「私1ヶ月仲良くして気付いた。萌乃はイケメンとか興味なさそう!」
ビシッ、と得意気に指を立てられて思わず笑ってしまう。
うーん、まあでも一目というか、毎日会ってるしなー…。しかも今会ったら気まずい。ここは適当な理由をつけてなんとか行かないようにしたいなあ…私だけでも。
よし、必殺話題逸らし!
「まあいずみもさ、かっこいい幼なじみがいるじゃない」
「そりゃあ、怜央はイケメンだとおもう。幼なじみの私から見ても!でも目の保養とはちがうじゃん?」
あれぇ…?
いずみってこの時まだ清家くんのこと好きじゃなかったっけ?好きな人と目の保養は違うとか?
というか私も1ヶ月、いずみと仲良くなって分かったことがある。漫画を読んでる時はいずみとは仲良くなれる気が全くしなかった。
でも実際どうだろう。こうして1番仲良くなっている。
原作通りだったり記憶にある原作と違ったり、まだまだ謎が多い。
でも私的には今の私が楽しいのでそれでいっか、と思ってる。
「はいでた萌乃のすぐ考え込む癖〜」
「はっ」
「まさか萌乃って怜央みたいな男子がタイプ?」
「いや、そうじゃないよ!?」
「あはは!でも怜央って恋愛とかに全然興味無さそうなんだよね。しばらく彼女とかも作らなさそう」
「クールだねぇ」
「萌乃も興味なさそうだけど」
「えー?そう見える?」
「見える見える」
じゃあ上手く隠せてるんだ。だって私はあわよくばスクールラブを体験してみたいって常々思っているもんね…!はあ、想像しただけでにやける。表情には出さないけど。
そんな感じで2人で談笑していたら教室から女子の悲鳴が聞こえた。
「うわ、なに?」
「あーーっ見て萌乃!噂をすれば王子が!」
「王子!?ちょ、いずみ!」
「行こう!」
「えぇ〜〜〜」
いずみに手を引かれて教室のドアまで行くと、伊月が女子に囲まれていた。背が高いから頭一つ抜けてて囲まれていてもわかりやすかった。
「確かに噂は本当だったね!イケメン王子は目の保養になる〜」
「あれが王子…」
「あれ?あれれ〜?もしかして、気になっちゃったり?」
「もう、違うよ」
なるほど確かに彼は王子だ。囲まれていても嫌な顔一つせず、少し困ったような笑顔とか、仕草が一々王子らしい。いや、原作で王子と呼ばれていたのを思い出した。伊月は伊月だったからすっかり忘れていた。
私と伊月の距離は遠くて、なんだか急に彼と壁一枚で隔たれた気がしてもやもやした。離れようとしたのは私からなのになんて我儘なんだろう。よくないよくない!
いずみも堪能したみたいだしそろそろ戻ろうかとしたその時、
―――伊月と目が合った。
「!」
やばい、咄嗟に目を逸らしてしまった。流石に感じ悪すぎるよねこれは…。
帰宅してもし伊月と会えたら謝ろう。
そう自分の中で決意して、いずみと共に席に戻った。