地球から月へ
西暦2534年,宇宙航空技術は飛躍的な進歩を遂げ,地球から月への旅行が実現していた.
飛行機で海外旅行に行くのと同じ感覚で,スペースシャトルで地球から月へ,または月から地球へ旅行することができるようになった.
灰色の岩石とクレーターしかなかった大地には,「コロニー」と呼ばれる居住区域が完成した.
これは,地球から月へ派遣された開拓団による長年の開発の賜物である.
そのコロニーは,住宅街,商業施設,学校など,地球上にあるのと何ら変わらない施設を多数備えていた.
おかげで,人類はそれまで地球上で営んでいた生活を,月面上にそのまま再現することを達成したのである.
しかし,ここである問題が浮上した.
それは,「月は誰のものか」という問題である.
コロニー開発のために地球から派遣された開拓団は,異なる国籍を持つメンバーによって構成されていた.
月の開拓事業は,「国際宇宙開発機関(ISDO: Interenational Space Development Organization)」の管轄だったのだが,
月面にコロニーが完成してから,ISDO加盟国の中で,月面コロニーの所有権を主張する国が続出した.
また,ISDOの中には,「月はISDOの管轄であるから,ISDO加盟国によって共同運営すべきだ」という意見も出た.
月はISDO全体のものなのか,それともどこか特定の国のものなのか,議論は紛糾した.
このことはニュースとして報じられ,地球の人類のみならず,月面コロニーの人々の知るところとなった.
月面の人々は,「月は地球上の誰のものでもない.醜いパイの奪い合いに巻き込まれる筋合いはない」として,
「月面共和国(Republic of the moon)」と称する独立国家の樹立,および地球からの完全な独立を宣言した.
これにより,地球と月を往復する宇宙船の数は急激に減少した.
しばらくして後,ISDOの中で真っ先に月の所有権を主張していた超大国・スーリア連邦が,
月面コロニーへ向けて核ミサイルを発射した.
月面共和国はミサイルの迎撃に成功したが,スーリア連邦による軍事的挑戦とみなし,同国に宣戦布告した.
また,地球上では,スーリア連邦と並ぶ超大国・マセリア連合共和国も,スーリア連邦によるミサイル発射を非難,
月面共和国による軍事行動を援助することを決定した.
これにより,月面・マセリア連合軍対スーリア連邦の戦争,世にいう「地球・月戦争」が勃発したのである.
スーリアは,地上ではマセリアによる総攻撃,上空からは月面共和国の宇宙船及び航宙戦闘機による攻撃を受け,降伏した.