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事件の犯人

 翌日、署に一人の男性が呼び出された。その男は、セイクレッド・オアシスのメンバー。今回は、応接室ではなく、取り調べ室に呼び出され、男は少し緊張した面持ちだった。


「小出川さんを殺したのは、あなたですね」


 清治は藪から棒に言い放った。男は口をあんぐりと開けてから、はははと笑った。


「何を言って――」

「いいえ、真剣に言っています。まずは、謝らせていただきます。死亡推定時刻は、午後十時と言いましたが、その五時間後。午前三時の間違いでした」


 男の目尻がぴくりと動いた。


「あなたは、まず小出川さんを呼び出し、タバコにでも誘ったのでしょう。それが何処かはわかりませんが、そこから不意にナイフで脅し、犯行のあった袋小路の路地裏まで追いつめた。疲弊したところをナイフで執拗に刺し殺し、雪に残った足跡を、スコップで掘り返して消し、さらに臀部に雪を被せた。それに使うスコップの場所も、把握しておいてね」


 目尻だけでなく、口元までもが痙攣し始める。


「走って追いつめたのは、疲弊により死後硬直を速めるため。雪を被せたのは、直腸温度で割り出す死亡推定時刻を狂わせるため」


 わざとらしく、男は噴き出す。そんな手の込んだことを、自分ができるという証拠はあるのかと。

「あなたは地図を覚えることと、スノースポーツが趣味ですよね。入り組んだ道を覚えるのも、雪の中を走るのも得意でしょう。タバコも吸われてましたよね。好きな銘柄はセブンスター」


 清治は、犯行現場に落ちていたタバコの箱を提示した。銘柄はセブンスター。

 男は、一瞬目を見開いたが、冷静に、ただのゴミじゃないかと反論した。


「そうかもしれません。ですが、付近の地理を熟知し、雪に慣れていなければ、犯行は出来ません」

「じゃあ、口紅はっ!?」

「あなた、最初の供述では、現場に落ちていた口紅は、見覚えがないと仰っていましたよ」

「な、口紅は女のものっ、だから、綾香の口紅だっ」

「三谷さんは、使用していたものを無くしたんですよ」

「そうだよ。だからなん――」


 そこで失言したとばかりに、男は口をぱかっと開けた。


「犯行現場に落ちていたのは新品。そしてあなたは、三谷さんが口紅を無くしていたことを、実は知っていたと今、認めてしまった。さらに、以前の供述でも失言をしています。高沢さんと、三谷さんの会話を、あなたは“全員”が見ていたと。犯行時刻が、午後十時のまま覆されなければ、三人しかいなかったはず」


 がたがたと顔を震わせ、奥歯を数秒噛みしめた後、力を解いて頭を垂れた。

「――小出川祐介は、俺が殺しました」


 ついに、永井は自白した。


「許せなかったんです。あいつはっ、メンバーのプライベートもプライドもみんな売り飛ばして、自分の人気に変えていたんです! 高沢も、メジャーに行ったら、今までの音楽ができなくなるって、まだインディーズに残ろうって、話してたっ! なのに、あいつは勝手にメジャーデビュー推し進めて、そのために綾香を裏切って、ラジオの女と浮気した! あいつは、人気のためなら、何でもする最低な下衆野郎なんですっ!」


 小出川への怒りをぶちまける永井。

 清治は、冷静にその矛盾を突いた。


「あなたは、メンバーを売った小出川さんが許せなかったと」

「そうですよ!」

「あなたも、わざわざ偽装工作のために口紅を用意したみたいですが」


 永井は、反論する言葉を失った。


「警察を混乱させたかったのか知りませんが。あなたも、メンバーの一人を売ったのです。あなたも同罪です」

「……、なぜ俺だと分かったんですか。なぜ、俺だけが路地裏にあいつを追いつめられるって分かったんですかっ」

「娘があなたたちのファンなのです」


 清治の言葉で、永井は途端に顔をくしゃっと丸めた。

 ようやく自らが犯した罪を自覚したのだ。

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