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ソティラス (後編)  作者: 明智 倫礼
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悪かそれとも……

 地震。

 噴火。

 地割れ。


 これらが繰り返される中、ヤシュたちは迅速に、正確に人々を宇宙船へ乗り込ませ、惑星を飛び立ったのは二十一時過ぎ。上空へ上がり、大気圏を突破して、十分も経たないうちに、マグマの海に惑星は包まれ、赤オレンジ色に、ヤシュたちの顔が染まった。


 その時!!


 猛烈な爆発音とともに、惑星は粉々に砕け散った。衝撃で宇宙船がガタガタと揺れる。悲鳴と共に、泣き声があちこちで聞こえてきた。これで、二度目だ。自分たちが住む惑星が、目の前でなくなってしまうのは。ヤシュはこぶしを握りしめた。人々の心を再び傷つけた、オルタカを許せずに。



 イサナはあちこちのデータベースにアクセスする日々を送っていた。寝る間も惜しんで。だが、ギセンガンの行方どころか、オルタカの足取りもつかめなかった。


 ヤシュの宇宙船に、ロイエールとイサナは訪れていた。三人とも行き詰まっていた。惑星からの脱出は成功したが、燃料の関係から、一歩も動くことができない。宇宙船のエンジンを止めて、果ての見えない、暗い宇宙を漂うだけ。そんな日々が一週間過ぎた。


 国民からは不安や焦りの声が上がっている。このままでは暴動が起きかねない。ヤシュは決断を迫られていた。新たな惑星を探すべきだが、広い宇宙をやみくもに探すわけにはいかない。前回は運よく、二ヶ月で見つかったが、今回も同じとは限らない。


 ヤシュたちは重い空気に包まれていた。ロイエールは右のこぶしを左手で強く握りしめ、


「ユライ待ちか……」


 彼はあれ以来、意識は戻っていない、回復してきてはいるが。イサナのハッカーの腕はかなりのものだが、PCオタクの、ユライには敵わない。ギセンガンたちの行方を探せるとしたら、ユライしかいない。さっきから、一言も話さなかったヤシュは、船室の小さな丸窓から、無限に広がる宇宙を眺めている。彼はあの夢を思い出していた。十年前に見た夢を。


『さらに多くの人々が死を迎えるであろう』


 ヤシュは皇帝という地位を得ても、この広い宇宙では無力だ。そう思い知らされて、自分自身に憤りを感じた。イサナは珍しく真剣な顔をして、ヤシュをうかがっていた。コンコンッ! ドアが強くノックされた。


「皇帝陛下! ユライ様が意識を取り戻されました!!」


 ヤシュたち三人は、さっと立ち上がった。


  ★ ★ ★


 ヤシュたちはユライの部屋で、彼からオルタカに関する新たな事実を聞かされた。ロイエールは驚きを隠せなかった。


「にわかには信じがたい……」


 ヤシュは宇宙を眺めながら、


「自由自在……」

「突然変異なのかもしれませんね〜」


 イサナの能天気な声に、


「…………」


 ユライは何も言わなかったが、彼を睨みつけた。まだ本調子ではないらしい。


 ユライの話とはこうだ。オルタカはカンラを浴び、何らかの要因で、カンラを体内へ吸収したり、体外へ放出する能力を手に入れてしまった。カンラム病を治せる人物、いや、神として、スタヴロス教に迎え入れられた。それだけならよかったが、オルタカは罪を犯した。大きな罪をいくつも……。カンラを使い、自分たちにとって都合の悪い人物を殺したのだ、何人も。その度に、カンラが惑星を汚染し、


 地震。

 噴火。

 地割れを起こして、挙句。惑星そのものが消滅してしまった。ヤシュはまた、こぶしを強く握りしめた。四人はしばらく黙った。そして突如、イサナの声が沈黙を破った。


「ユライ、オルタカの病状を知っていますか?」


 ユライは訝しげな顔で、


「今話したので、全てだ」


 きっぱりと断言した。イサナはニコッと笑い、胸ポケットから一枚の紙切れを、ひらひらと取り出した。


「お前のポケットには、いつも紙切れが入っているな」


 ヤシュは珍しく笑った。ロイエールは目を細めて、


「確かに……」


 くくっと笑った。ユライは、イサナから紙を渡されて、


「どこで、手に入れた?」


 また、女性から手に入れたのでは? と思い、ユライの表情は鬼の形相だ。イサナは涼しい顔して、


「院長室です」


 スタヴロス教本部を訪れる前に、イサナは見つけていたのだ。オルタカのカルテの一部を。ただ、名前が載っていなかったため、今まで誰にも言わなかった。確証がなかったのだ。ユライはカルテをさっと読み、慌てて、PCを打ち出した。


 ヤシュとロイエールは不思議に思い、紙を広げた。


「まずいな……」


 ロイエールはユライに視線を移して、


「ギセンガンたちはどこへ行った?」


 ユライは見向きもせず、


「今、やっている!!」


 病み上がりの彼のひたいには、脂汗が吹き出していた。それでも、ユライは手を止めなかった。カルテの内容があまりにも危険だからだ。


 オルタカを何としても、止めなければ!


 その一心で、ユライはキーを弾き続けた。大抵のことは、三十分もかからずに、情報を引き出すユライ。だが、今回は体調不良と、闇のまた闇の情報ということで、ユライが口を開いたのは、二時間ほど経ってからだった。


「見つかった」


 汗がポタポタと手元に落ちる。


「第七星雲……」


 息切れがひどい、


「A六七星……」


 手がもつれる。


「惑星セフィス……」


 あと一息という想いで、大きく息を吸い、


「その衛星、アメティス!!」


 ユライはパタッとベッドに倒れた。ヤシュはさっと立ち上がり、


「出陣だ!!」

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