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ソティラス (後編)  作者: 明智 倫礼
5/15

深まる謎

 その日の深夜。


 中心街の地震は昼間のものより、さらに大きく、グランディ九・ゼロだった。城にいるのは危険だと判断され、シュタインもヤシュも軍が作った野営地へ避難した。


 眠れない夜が過ぎていき、なす術もないまま月日が過ぎていった。


 救助で軍は忙しいため、皇室の警備は手薄となり、ヤシュのそばにはロイエールのみが、護衛としてついているだけだった。


 地上のことは、まるで知らないよいうように、星々が夜空を彩っている。最低限の兵しか置いていないため、余震のない時は、とても静かだった。だが、ヤシュのテントは、にぎやか……いや、騒がしかった。


「カンラの使用だ!」

「そんなはずはない!」


 ユライとロイエールはさっきから、この繰り返しで、お互い一歩も譲らない。ヤシュとイサナは、ふたりのやり取りをBGMにして、ユライが立てた仮説を考えていた。やはり、カンラの使用が要因で、地震が起きている。上陸時に、何らかの方法でカンラを持ち込んだ人物がいるというものだ。


 ヤシュの声がユライとロイエールの言い争いに割って入った。


「カンラの使用レベルはどのくらいだ?」

「アステマ関数、リルラダーー」


 また、専門用語の並べ出したユライに、ヤシュは注意する。


「私たちにわかるよう、説明しろ」


 ユライは咳払いして、


「人一人、殺せる程度のカンラの使用が数回起きている」


 イサナは珍しく真剣な面持ちで、


「その仮説が正しければ、すでに、何人かが亡くなっているかもしれませんね〜」


 イサナの視線を受けたヤシュは、


「何人も亡くなっていたら、議題に上るはずだが……」

「上がっていないとなると……」


 イサナが言い終わる前に、ロイエールはふと思い出した。


「いや、医師が数名、研修に行ったきり、戻ってきていない」


 全員の視線がロイエールへ。


「……っ!」

「何っ!?」


 ヤシュとユライは珍しく驚いた。ロイエールはアンダル地区を訪れる度、おかしいと思っていたことを打ち明けた。


「父の見舞いに行く度、担当医が変わっていた」


 ユライはロイエールに質問を投げかける。


「それは、いつ頃だ?」


 ロイエールは少し考えて、


「……正確には思い出せんが、地震の救助活動が落ち着いた頃に、父の見舞いに行っては、担当医が変わっていた」

「病院側はなんと説明していた?」


 ヤシュからの質問に、


「研修中か何かで、連絡が全くつかないと言っていた」


 策略家イサナはニコニコしながら、


「おかしいですね〜。研修で連絡がつかないことなどあり得るでしょうか〜? それに、研修が行われているなど、私たちの耳には入って来ていませんよ〜」

「何人、連絡がつかない?」


 ユライからの問いかけに、ロイエールは記憶を辿った。


「……少なくとも、ふたりだ」

「…………」


 沈黙が四人を包み込んだ。その時だった。ロイエールはテントの外に人の気配を感じて、剣に手をかけた。


「……!!」


 ロイエールは構えたまま、一向に動く気配を見せない。それは、相手に殺気がないからだった。彼の眼光はヤシュへと向けられ、それを受けた皇子は、うなずいて見せた。ロイエールは用心深く口を開いた。


「どうした?」

「こっ……こっ……!」


 外の相手はずいぶん慌てているらしく、話が一向に進む様子を見せなかった。ヤシュが皇族らしく、威厳ある声で、


「落ち着け」


 皇子の言葉に従って、呼吸を整える気配がしたあと、


「失礼いたしました! 皇帝陛下がカンラに汚染されたました!!」


 四人の背筋は凍りついた。


  ★ ★ ★


 アンダル地区、病院内の集中治療室。


 外の廊下で、ヤシュたちは気を揉んでいた。ユライはロイエールにこれ見よがしに、


「これで、俺の話を信用するだろう」

「すまん」


 嫌味で言ったのに、素直に謝られたので、ユライは居心地が悪くなり、そっぽを向いて、PCをパチパチ打ち始めた。壁に寄りかかっていたイサナは、


「どのように、汚染されたのでしょうかね〜?」


 ロイエールは当然というように、


「上陸時に、カンラを持ち込んだ輩が、使用ーー」


 ヤシュの声が割って入る。


「そうとは限らんのではないか?」

「ん?」


 ヤシュはまっすぐ、病院の白い壁を見つめたまま、


「上陸時のカンラ所持チェックは、厳重であった」


 皇子はロイエールへ顔を向け、


「他の方法で、持ち込んだ者がいるか。何らかの影響で、この惑星のカンラが漏れ出たか……」


 再び前を向き、


「だがしかし、後者の可能性は薄いであろう」


 ユライはPCを操作しながら、


「惑星の隅々まで調べたが、カンラはどこにも発見されなかった」


 上陸時のデータが画面の端に映っていた。ヤシュは軽くため息をつき、


「研修に行ったきりの医師たちは、おそらく、もう生きてはおるまい」

「っ!?」


 ロイエールはびっくりしたが、ユライとイサナは平然としていた。PCに夢中になっていて、話を聞いていないユライは置いておいて、何の反応も示さないイサナに、ヤシュは視線をやった。


「予測はついておるのであろう?」

「ついていますが……あり得ることなのかを迷っているんです。ですから、黙っていたのですが……」


 そこで、ユライはPCを突然ぱたんと閉じた。のらりくらりと話しているイサナに、文句でも言うのかと思われたが、


「カンラの反応箇所が見つかった、行ってくる」


 ユライはPCを抱え、廊下をすたすた歩き始めた。


「どこだ?」


 ロイエールの問いかけに、ユライは返事をするどころか、振り向きもせず、どんどん離れてゆく。


「気をつけてくださいね〜」


 のーてんきに見送ったイサナを前にして、ヤシュは、


「お前、危険だと知っていて、わざと行かせたであろう」

「何っ!」


 ロイエールはイサナを睨みつけた。イサナは気にした様子も見せず、


「見当はついているのですが、確証がないのですよ〜」

「お前、また……」


 ヤシュとロイエールは同時に、大きくため息をついた。イサナという策略家。この男、頭は切れるし、緻密な計画が大の得意で、右に出る者はいないのだが。負ける可能性が高いものをわざと選び、彼の特異体質で、やりたいと名乗り出てきた人間にやさせて、


『あぁ〜、やはり、失敗してしまいましたか〜』


 と言うのである。イサナは危険だと知りつつ、ユライをモルモットとして行かせたのだ。無慈悲極まりない男である。


  ★ ★ ★


 ユライは病院の廊下をすたすた歩いてゆく。時刻は深夜。そのため、看護師も医師も最低限しかおらず、薄暗く、不気味な静けさがまとわりついてきた。だが、研究者の彼の探究心は強く、結果を見たいという想いにかられ、目的地を目指した。あともう少しで、院長室へ到着というところで、部屋のドアが開いた。


 中から、紫のフード付きローブを着た人物が出てきた。細身だが、必要最低限の筋肉のついた体つき。フードが深く降ろされ、顔を見ることはかなわない。廊下の真ん中へすうっと立ちはだかった。


「ユライ マルガッテ、待っていましたよ」


 言われた彼はぴたりと歩みを止め、鼻で笑った。


「待っていただと?」

「えぇ」


 気品のある男の声だが、どこか禍々しさを感じさせる。


「あなたの能力を、スタヴロス教では高く評価しているのですよ」


 おそらく、ユライのハッカーの腕前のことであろう。彼は口をへの字に曲げて、薄ら笑いを浮かべ、


「遠回しな言い方をするほど、暇なのか?」


 男は不気味に笑って、


「では、単刀直入に言いましょう。神の元へ来なさい」

「宗教に興味などない」


 ユライは投げやりに応え、相手をじっと見据えた。


「何をどうしたかは知らないが、ギセンガンのカンラを体内から除去したのは、貴様だな?」

「いかにも」


 カンラの治療は病院の医師しかできないはず。だが、目の前の男は、どう見ても医療関係者ではない。それなのに、カンラを体内から除去できるとは、どういうことだろうか。ユライが考えていると、男は両手を広げ、天井を仰ぎ見て、


「私は神なのです」


 ユライはあきれて、わざとらしくため息を吐いた。


「スタヴロス教は、どうやら、頭のおかしい人間の集まりみたいだな」


 男はユライの嫌味など気にせず、


「あなたは、神の力を甘く見ているようですね」


 その時、ユライは気づいた。


 この男がカンラを所持しているのではなく……。


 だが、遅かった。そこで、なぜかユライは突然、


「げほっ!」


 口から大量の血を吐き、床にどさっと崩れ落ちた。激しいけいれんを起こしている。これは、カンラム病の症状のひとつだ。相手が何かしたわけでもないのに、一体どうしたことか。紫のローブの男の姿はもうなかった。倒れたままのユライから、床へ血の海ができていった。まるで、不安が広がっていくかのように。

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