めぐりくる運命
シュタイン皇帝に、ヤシュとユライが惑星の寿命が伝えてから、緊急軍議が開かれるまでに、そう時間はかからなかった。
円形状のひな壇に、各部署の重鎮たちが顔を並べていた。シュタインを囲むように座っていた人々は、皇帝の言葉に驚きを隠せず、会場がどよめきの渦に包まれた。
最初は、否定的な意見が出されたが、出所がユライだと知り、認めざるをおえなかった。彼が皇女の息子だからという理由だけではなく、ユライのPCオタクは有名で、前惑星の爆発予告時刻を、ピタリと計算して見せたのだ。一秒のズレもなかった。会場にいる全員を黙らせるほどの実績があった。異論を唱える者は誰もいなくなった。
惑星の寿命が本当だと納得すると、今度は会場中に困惑が浸透し始めた。だが、そこは、人の上に立つ者たちだけあって、すぐに冷静さを取り戻した。二時間ほど、議論に議論を重ね、国民への配慮が取られ、極秘に新惑星の捜索隊を派遣することとなった。
誰が行くかという話に移り、皇帝のすぐそばに座っていた男が手を上げた。
「陛下、私が参ります」
全員の視線の先には、最高司令官のギセンガンが。どよめきが起こった。ギセンガンの真正面に、対立するように座る男が立ち上がり、声を荒げて、
「軍の最高司令官が不在では、政はどうなるのだ!」
すぐ隣にいた男も、いきり立って、
「それこそ、国民に知れ渡ってしまうではないか!」
ギセンガンの斜め前にいた、すまし顔をした男が、
「最高司令官が真っ先に出て行くなど、聞いたことがありません」
次々に反対意見が持ち上がり、熱気に満ちた男たちは収集がつかなくなっていた。だが、そこは帝国。一段高いところにある、黄金でできた椅子に座っていたシュタインが、さっと右手を上げた。
黙れというのだ。そこで、男たちの口論はぴたりと止んだ。シュタインは優しい眼差しを、ギセンガンへ向け、
「お前に任せる」
会場にいた人たちの何人かは、心の中でやはりそうかと思った。シュタイン皇帝は、最高司令官、いや、ギセンガンという男に、絶対の信頼を置いていたのだ。数々の戦争を勝利へと導いたのは、この男だ。そのため、シュタインはギセンガンに対して、少々甘いところがあった。
ギセンガンは席からさっと立ち上がり、
「はっ!」
深々とこうべを垂れ、
「必ずや、見つけて参ります!」
うんうんと嬉しそうに頷きながら、皇帝は、
「連れ立ってゆく他の者たちの選考もお前に任せる」
「かしこまりました!」
できのいい我が子を見守るような視線で、シュタインは、
「出発は一週間後でどうだ?」
「大丈夫であります!」
ギセンガンは敬礼をしてみせた。
「では、頼むぞ」
シュタインの言葉で、軍議はお開きとなった。皇帝の命令は絶対であり、どんな不平不満があろうと、従うしかなかった。人々は様々な想いを抱きつつ、軍議場から出て行った。そして、ヤシュとユライだけになった。皇子はギセンガンの座っていた椅子を、ずっと見つめていた。
「どうも解せんな」
軍議場の中央に映し出された、透明な大画面を眺めた。ユライはPCを操作するのに夢中で、ヤシュの方は見ずに、
「何がだ?」
「常に慎重な行動をする、あのギセンガンが真っ先に名乗り出るとは……」
ユライはPCを打つのをやめて、減らず口を叩いた。
「責任を感じているんだろう、あの無慈悲極まりない男でも」
戦いに勝利するためには、手段を選ばないギセンガン。そのため、軍議がもめにもめることも多々あった。皇子として、常に出席してきたヤシュは、今までのことを思い返して、鼻で少しだけ笑う。
「そうならいいのだが……」
ユライは研究の邪魔をされたくないようで、PCをそそくさとシャットダウン。自宅かつ研究室で、作業を続けようとして、さっと立ち上がった。そんな従兄弟を見上げて、ヤシュはねぎらいの言葉をかける。
「お前も少しは休め」
今頃、女をはべらせているであろうイサナと、ユライは一緒にされたのが気に気わず、
「…………」
ヤシュを一瞥しただけで、軍議場をつかつかと出ていった。一人残った皇子は、
「……夢」
突然、つぶやいた。
あの、紫と赤の月がかかる星空。
光る花の道。
吹き抜けてゆく柔らかな風。
緑豊かな草原。
もう、何年前の夢だろうか。不思議なことに、今でもはっきりと覚えている。そして、そこで聞いた言葉も。
「あれは……」
今のヤシュにとって、パズルピースが足りなさ過ぎて、どの結論にもたどり着けなかった。これ以上はここにいても仕方がないと言わんばかりに、彼はため息をついた。重たい腰をやっと上げ、
「イサナは今頃、何かつかんでるかもしれんな」
言い残して、軍議場をあとにした。




