表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソティラス (後編)  作者: 明智 倫礼
2/15

めぐりくる運命

 シュタイン皇帝に、ヤシュとユライが惑星の寿命が伝えてから、緊急軍議が開かれるまでに、そう時間はかからなかった。


 円形状のひな壇に、各部署の重鎮たちが顔を並べていた。シュタインを囲むように座っていた人々は、皇帝の言葉に驚きを隠せず、会場がどよめきの渦に包まれた。


 最初は、否定的な意見が出されたが、出所がユライだと知り、認めざるをおえなかった。彼が皇女の息子だからという理由だけではなく、ユライのPCオタクは有名で、前惑星の爆発予告時刻を、ピタリと計算して見せたのだ。一秒のズレもなかった。会場にいる全員を黙らせるほどの実績があった。異論を唱える者は誰もいなくなった。


 惑星の寿命が本当だと納得すると、今度は会場中に困惑が浸透し始めた。だが、そこは、人の上に立つ者たちだけあって、すぐに冷静さを取り戻した。二時間ほど、議論に議論を重ね、国民への配慮が取られ、極秘に新惑星の捜索隊を派遣することとなった。


 誰が行くかという話に移り、皇帝のすぐそばに座っていた男が手を上げた。


「陛下、私が参ります」


 全員の視線の先には、最高司令官のギセンガンが。どよめきが起こった。ギセンガンの真正面に、対立するように座る男が立ち上がり、声を荒げて、


「軍の最高司令官が不在では、まつりごとはどうなるのだ!」


 すぐ隣にいた男も、いきり立って、


「それこそ、国民に知れ渡ってしまうではないか!」


 ギセンガンの斜め前にいた、すまし顔をした男が、


「最高司令官が真っ先に出て行くなど、聞いたことがありません」


 次々に反対意見が持ち上がり、熱気に満ちた男たちは収集がつかなくなっていた。だが、そこは帝国。一段高いところにある、黄金でできた椅子に座っていたシュタインが、さっと右手を上げた。


 黙れというのだ。そこで、男たちの口論はぴたりと止んだ。シュタインは優しい眼差しを、ギセンガンへ向け、


「お前に任せる」


 会場にいた人たちの何人かは、心の中でやはりそうかと思った。シュタイン皇帝は、最高司令官、いや、ギセンガンという男に、絶対の信頼を置いていたのだ。数々の戦争を勝利へと導いたのは、この男だ。そのため、シュタインはギセンガンに対して、少々甘いところがあった。


 ギセンガンは席からさっと立ち上がり、


「はっ!」


 深々とこうべを垂れ、


「必ずや、見つけて参ります!」


 うんうんと嬉しそうに頷きながら、皇帝は、


「連れ立ってゆく他の者たちの選考もお前に任せる」

「かしこまりました!」


 できのいい我が子を見守るような視線で、シュタインは、


「出発は一週間後でどうだ?」

「大丈夫であります!」


 ギセンガンは敬礼をしてみせた。


「では、頼むぞ」


 シュタインの言葉で、軍議はお開きとなった。皇帝の命令は絶対であり、どんな不平不満があろうと、従うしかなかった。人々は様々な想いを抱きつつ、軍議場から出て行った。そして、ヤシュとユライだけになった。皇子はギセンガンの座っていた椅子を、ずっと見つめていた。


「どうもせんな」


 軍議場の中央に映し出された、透明な大画面を眺めた。ユライはPCを操作するのに夢中で、ヤシュの方は見ずに、


「何がだ?」

「常に慎重な行動をする、あのギセンガンが真っ先に名乗り出るとは……」


 ユライはPCを打つのをやめて、減らず口を叩いた。


「責任を感じているんだろう、あの無慈悲極まりない男でも」


 戦いに勝利するためには、手段を選ばないギセンガン。そのため、軍議がもめにもめることも多々あった。皇子として、常に出席してきたヤシュは、今までのことを思い返して、鼻で少しだけ笑う。


「そうならいいのだが……」


 ユライは研究の邪魔をされたくないようで、PCをそそくさとシャットダウン。自宅かつ研究室で、作業を続けようとして、さっと立ち上がった。そんな従兄弟を見上げて、ヤシュはねぎらいの言葉をかける。


「お前も少しは休め」


 今頃、女をはべらせているであろうイサナと、ユライは一緒にされたのが気に気わず、


「…………」


 ヤシュを一瞥しただけで、軍議場をつかつかと出ていった。一人残った皇子は、


「……夢」


 突然、つぶやいた。

 あの、紫と赤の月がかかる星空。

 光る花の道。

 吹き抜けてゆく柔らかな風。

 緑豊かな草原。

 もう、何年前の夢だろうか。不思議なことに、今でもはっきりと覚えている。そして、そこで聞いた言葉も。


「あれは……」


 今のヤシュにとって、パズルピースが足りなさ過ぎて、どの結論にもたどり着けなかった。これ以上はここにいても仕方がないと言わんばかりに、彼はため息をついた。重たい腰をやっと上げ、


「イサナは今頃、何かつかんでるかもしれんな」


 言い残して、軍議場をあとにした。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ