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ソティラス (後編)  作者: 明智 倫礼
13/15

遠い遠い別れ

 ーー「立ち上がるがよい」


 意識を失ったはずなのに、的は誰かの声を聞いた。それは、何だかどこかで、聞いたことのあるものだった。


「う、うーっ!」


 隣から、倒れたはずのアルフのうめき声が。的は両腕を使い、上体を起こすと、地面にあった雪は綺麗さっぱりなくなり、あたり一面原っぱになっていた。


「さあ、立ち上がるがよい」


 はっきりとした声、普通の怖さではなく、おそれを感じさせる声が、耳からではなく、体の内側に響く。それは非日常的で、的は死んで、天国へきたのだと思った。


 ソティラスたち、アルフとマジョルカ、クピルとマサガガ、ヤシュたちは、声に従い立ち上がる。まるで、大きな力に操られているかのように。


 遺跡のてっぺんに、黒い人影が浮かんでいるのを見つけた。イリョスが後光のように差していて、顔をうかがい見ることはできない。ぱたぱたと何かが、風にはためいている。


 遺跡の前に立つ、真っ白なローブを着た人物。

 その服が風になびく様。 


 夢の記憶と合致し、ソティラスたち、クピルとマサガガはサマノスだと思い、アルフとヤシュは夢に出てきた人物だと気づいた。


 地面の上には、あちこち焼けただれ、動かなくなったオルタカが倒れていた。最後の攻撃で力尽き、彼には安らかな時間が訪れていた。それを見つけた的は、ぽつりと、


「現実……何で?」


 相撃ちだったはずの、敵が目の前に倒れている。普通ではありえない光景。彼の問いに、白いローブの人物が、威厳ある声で、


「そなたたちのカンラは、全て取り除いた」

「え……?」


 全員、驚いて、思わず声を漏らした。どうやって、カンラを取り除いたんだろうか。いくらサマノスーー賢者でも、無理すぎる。目の前にいる人は何者なのだろうか。みんなの頭には同じ考えが浮かんでいた。


「その者の魂は私が預かる」


 オルタカの体から、小さなガラス玉のようなものが抜け出し、空高く舞い上がったかと思うと、白いローブの人物の手に収まり、すうっと消えてしまった。常軌を脱した仕業。的は思い切って、


「誰?」


 タメ口で聞いた。後光が少しずつ薄れてゆくーー陽が動いていく中で、さも当然というに、


「この宇宙を支配する神である」


 全員、一瞬固まったが、先ほどのカンラとオルタカのことを思い出した。デオスーー神様!! びっくりして、全員深々と頭を下げた。


「顔を上げるがよい」


 体の内側から、行動が支配される。言われるがまま、頭を上げるしかなかった。すると、神は一瞬にして、遺跡のてっぺんから入口の前に移動していた。しかも、フードをとった状態。人ではない、はるか長い時間を生きてきた雰囲気をかもし出していた。そんな神聖なる風景で、なぜか、ただ一人的は目の前の光景を信じがたくなり、


「えっ? えっ? えぇっっ!!」


 何やら、慌てふためき始めた。こんなボケをしてくる的でないことはわかりきっていること、しかも、神様の前ということで、アルフは真面目な顔をして、


「どうかしたのか?」


 的はアルフと神を交互に見ながら、


「えっ? ……だって……あれ」


 何か、神に対して問題ありげな態度。それを知っている神は、くすりと笑った。それは、いたずら好きな人がする仕草だった。そして、的は大声をとどろかせた。


「り、理有っ!?」


 なんと、神と理有はそっくりな顔立ちだった。こんな不思議なことがあるのだろうか、人と神が似ていることなど。理有の話を聞いていた、アルフも一緒に驚く。


「おう!? あの、ダチか!?」


 他の人たちも、少しざわついた。


「友達?」

「神様が……?」

「どういうこと?」

「おかしいですね〜」


 その言葉を背景にして、的は混乱し続ける。


「えっ? あ、あ……え??」


 悪戯が成功したみたいな笑みを神は見せ、話を先へ進ませた。


「さて、これからのことを告げる」


 人々の話し声は、ピタリと止んだ。住む場所のなくなってしまったヤシュたちに、神は目を止め、


「そなたたちはアメティスに住み、二度と同じ過ちを起こさぬよう、生きてゆくが良い」

「承知いたしました」


 皇帝ーー 一番偉い人物が深々と頭を下げると、ヤシュに倣って、他の人々同じように続いた。神は別の人物へ視線を向ける。


「アルフたち」

「おう!」


 こちらもタメ口。


「そなたたちは科学に頼りすぎて、目に見えぬものを信じることを忘れてしまった。今回のことをエガタに広めよ。それが、さらなる発展となろう」

「おう、わかったぜ」


 調子よく応えたアルフに、


「ちょっと、神様に対して、何てこと言うの!」


 マジョルカはアルフに近寄って、彼の代わりに、


「わかりました」


 丁寧に頭を下げた。神はセフィスの地上人へ、視線をやり、


「ソティラスたち、そなたたちは神に頼りすぎている。サマノスなど存在しない」

「えぇっ!」


 信じて疑わなかったことを否定され、ソティラスたちと、クピル、マサガガは驚いた。半ば放心状態の彼らに、神の言葉の続きが、


「我が直接、夢で語りかけていただけだ」


 目の前にいる神は、数々の予言をしてきた、夢の中の人物と一緒。その神が言うのだから、事実であろう。ソフィスの地上人らの意識は戻ってきた。神はそれを待って、


「エガタの人々との交流を盛んにせよ。さらなる発展が待っているであろう」

「ははあ」


 地上人たちはひれ伏した。そして、畏れを含む瞳が、


「最後に、道明寺 的」


 理有と似ているので、思わず、


「え? ……うん」


 と返事してしまったが、的は慌てて、


「……いや、はいっ!!」


 言い直した。


「そなたは、明日九月一日、零時を持って、地球へ戻す」


 神は澄んだ瞳を、人間へ向け、


「以上である」


 役目を終え、白いローブは暁の空へすうっと消えていった。六十年に一度の白夜、太陽が完全に姿を現した。

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