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ソティラス (後編)  作者: 明智 倫礼
11/15

最も恐ろしい作戦

  回復した的に、さっそく魔法を見せようと、アルフたちはマディス学園の練習場へ来ていた。得意げに、呪文を唱えようとして、


「我 グノスィーー」

「ちょっと、待って」


 的の不機嫌な声が遮った。アルフは集中力を解いて、


「あぁ?」


 不思議そうな顔を向けた。的はイラついている様子で、


「何で、俺と一緒?」

「あぁ? 一緒じゃねえって」

「同じ、グノシーだ!」

「違えって!」


 アルフと的はもめ始めた。彼らのケンカの原因は、神の加護が最大限に受けられる、名乗っていいと神託を受けた名前。それが、同じ『知識』を意味するものなのだ。元々、使っていた的は、あとから来たアルフに使われて、カチンと来ていた。だが、アルフは真面目な顔で、


「だから、グノスィだって。的のは、グノシーだろ?」

「え……?」


 的は意味が理解できなくて、一瞬固まった。アルフは的確に指摘する。


「発音、違えって」

「ん?」

「オレのは、グノスィー。的のは、グノシー」

「グノス……」


 アルフに倣って、言ってみようとするが、日本人の的には難しかった。そのため、子音が擦れる音だけが鳴り響く。


「違えんだって。『知識』と『隠れた知識』のふたつがあんだって」

「…………」


 言えないし、習ったことないし。不満だらけだったが、セフィス人のアルフが言うなら、従うしかなかった。納得のいかない的を置いて、アルフは気合いを入れて、呪文を唱えた。


「我 グノスィ デオス プロセフホメ トクス エピセシー!」


 トゲトゲ頭の少年の手に、突如光る弓矢が現れた。彼はそれを慣れた感じでつかみ、弦を大きく後ろへ引いて、最大限のところで、ぱっと離した。シュッと音を立て、光る矢は遠くへ飛んでいき、ドカーンッ! と防御壁にぶつかった。


「ほらな」


 アルフの得意げな声が、練習場にこだました。隣で見ていた的は、口のへの字に曲げ、


「威力なさすぎだ」


 ソティラスたちに混じって、数々の戦いをかいくぐって来た的からすれば、たとえ、神の加護を最大限に受けていても、実践の少ないアルフの攻撃は劣るのだ。的に門前払いされそうなアルフは、めげずに、


「いやいや、それでも戦力にはなんだろ?」

「足手まとい」

「だから、ならねえようにするって!!」

「それでもーー」


 的がさらに文句をつけようとすると、ロイエールが足早に入って来た。


「お前たち、作戦会議だ」


 アルフと的は視線を交わし、ロイエールとともに練習場を出ていった。


  ★ ★ ★


 学園内の一番広い教室。


 ソティラスたち、マサガガとクピル、アルフとマジョルカ、ヤシュたち、彼の部下、隊長数名が集まっていた。敵の詳細を話し合っていると、突然、アルフの声が響いた。


「そのオルタカってやつ、どんくらいもつんだ?」


 今までに、把握できないほどカンラを体内に取り込んで来たオルタカ。いくら突然変異をはいえ、やはり体は蝕まれていた。そのため、動くこともままならず、敵は完全に足止め状態。


「いつ、カンラを制御できなくなっても、おかしくない」


 PCオタクのユライが応えた。動けるようになるもの、いつだか予測がつかないのだ。しかも、暴走する危険性がある。


「あぁっ!?」


 アルフは椅子から立ち上がって、


「って、今すぐ、仕掛けねえと!」


 今にも教室を飛び出しそうなアルフ少年に、


「待て」


 ロイエールの重たい声がのしかかった。


「おう?」

「座って、アルフ」


 マジョルカに腕を引っ張られ、アルフは座り直した。


「さっきも話したが、敵の数はこちらの三倍近く。まともに当たっては、勝ち目はない」


 ロイエールの説明に、アルフは食ってかかる。


「けどよ、時間もねえんだろ?」

「…………」


 それっきり、全員黙ってしまった。


 この惑星を、自分たちもろとも、数千名の命を、一瞬にして奪う。恐ろしい人間兵器が、敵の大将だ。だからといって、放っておくだけの時間の余裕もない。何か手を打たなければ……。そう考えるが、なかなかいい案が浮かばない。みんなが真剣に考える中、一人ニコニコしている人物がいた。ヤシュは、その人の名を口にする。


「イサナ、お前、いい案があるのであろう?」

「おや? バレてしまいましたか〜」


 おどけて見せたイサナ。ロイエールとユライは必死に止める。


「そいつに聞くな」

「どうして、ダメなの?」


 クピルは不思議そうな顔をした。ユライとロイエールは同時に、


「負ける可能性が高いものを選ぶからだ!!」

「えぇっっっ!!!!」


 セフィス人たちの驚き声が、学園中にこだました。なぜ、失敗することをわざと選んでくるのか、まったく理解不能である。そんな恐ろしい策略家は、天使の笑みで、


「うふふふ、今回はそんなことはしませんよ〜」

「はぁー……」


 この場にいた全員が、盛大なため息をつく中、ヤシュだけは少し笑い、


「話してみろ」


 イサナの最も恐ろしい作戦が披露され始めた。


  ★ ★ ★


 再び、練習場。


 納得しない的を前にして、アルフは何度も光る矢を放っていた。彼のセンスは良く、矢を射るたびに、威力は増していったが、やはり、ソティラスのメンバーにはとても追いつかない。的は冷たく、


「連れて行かない」


 アルフは元気をなくして、


「んー、けどよ、戦力は多いほうがーー!!」


 神の助けか、野生の勘か、何かひらめいた。


「的、いいこと思いついたぞ!!」

「え……?」


 誰もいないのに、何故か、アルフは的の耳元で、ごにょごにょと、


「…………」


 全部聞き終えた的は、


「えぇっっっ!!!!」


 珍しく驚き声が、練習場にこだました。


「それならいいだろ?」

「そんな、突然ーー」


 的が反論しようとすると、ロイエールの低い声が響いた。


「時間だ、行くぞ」


 的とアルフは真剣な眼差しになり、最後の決戦に向けて、ふたりは歩き出した。

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