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ある日、始業のあいさつをした時のことだった。
起立、礼をして、着席の号令で何気なく座った。その瞬間、尻の下でぐにゃりといういやな感触がした。
同時にブーという大きな音が鳴る。
ちょっと間があった後、誰かがイヤダーと言った。続いてクスクスという笑い声。
思わず、自分で「キリーツ」と叫んで再び立ち上がった。
教壇の向こうの先生と目が合う。とたんにT型定規で頭をぶたれた。
すると真後ろの席で、「レイー」という声がしたので、先生に向かって深々と頭を下げた。
次にまた、「チャクセキー」と言うので、これにも従った。
ひときわ大きな音でブーっと鳴る。
これには教室中が大爆笑だった。先生も文字通り、腹を抱えて笑っている。
こんな辱めを受けたうえに、先生にもぶたれてとても悲しくなった。
泣きそうな顔をしながら、尻の下から取り出したブーブークッションを先生に見せた。
彼女はそれを手にすると、子供みたいないたずらはやめなさいと言って、後ろの席の福沢にも一発食らわした。
「これはいただきね」
「先生、それをどうするんですか。お願いです、うちの親にだけは――」
今度は福沢が泣きそうな顔で言う。
彼の父親は県議会議員だし、母親はPTAの役員をしているので、こんなことが知られたら大変だ。
それにしてもどうしてそんな立派な親から、福沢みたいな人間が生まれたんだろう。彼らはきっと、遠慮して勇吉という名前にしておいて良かったと思っているに違いない。
「大丈夫。こんなつまらないこと、ちくったりはしないわよ。ふふふ。こいつで教頭のやつをギャフンと言わせてやるの。どう?」
どっと教室が沸いて、次に拍手が起きた。




