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はっと目を覚ますと、視界の片隅に白衣が見える。
魔女がすぐそばに立っていた。何だかとてもいい匂いもする。
白衣の魔女というのもおかしなものだが。
頭の真上には、T型定規がこちらにぴたりと狙いを定めて静止している。
「カツ君。私の真ん前で居眠りするとは、たいした度胸ね」
目をつぶる間もなく、そいつは急降下してきた。バンと音がして、みんなが一斉に笑った。
彼女は根津真夜子と言って、数学の教師かつ僕たち一年三組のクラス担任である。いつも白衣にズボン姿で校舎内をさっそうと歩いた。
白衣を着ていたのは、チョークで服を汚したくなかったのかもしれない。
それから、いつもT型定規を携えていて、何かというと男子生徒の頭を容赦なくぶん殴った。だから女子には人気があった。いや男子にも。
一番やっつけられたのは、僕と福沢の二人だろう。何しろ成績はビリッケツだし、いつも二人でバカなことばかりやっていたから。
もっとも僕の方は、彼のいたずらや悪ふざけの犠牲になっていただけかもしれないが。
彼はいつも叱られては、あの魔女のやつめだの、あのマヨネーズのやつめ、いっぺん中身を全部ぶちまけてやろうかだの口走っては、腹を立てたふりをしていた。
僕にはちゃんとお見通しだった。福沢は先生に注目してほしかったのだ。