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ある生徒があれに呑み込まれて、二度と帰ってくることはなかった。
身震いがした。
教室へ夢中で飛び込んだ。
しかし中はがらんとしていて、人っ子一人いない。
僕はよろよろとしながら、教壇の真向いの一番前の席に座りこんだ。
「だから言ったろう」
背後で声がしたので振り向くと、福沢が真後ろの席に座ってにやにや笑っている。
相変わらず汚れた運動帽と体操服のままだ。
「外で僕といっしょにソフトボールをしていれば良かったんだ。君はもっと狭い世界に閉じ込められてしまった。もう出口はない」
「何をくだらない」
僕は、彼のしつこさについかっとなって席を立った。
教室のドアを開けた。しかしどういうわけか、そこから外に身を乗り出させることができない。廊下の柱の所には赤い消火器が確かに見える。
しかし出口に見えない壁でもあるように、体をそれ以上前に進ませることがどうしてもできない。
「無理だよ。行き止まりだ」
また福沢の声がする。僕はそれに逆らうように、なおも教室から出ようとあがいた。
「君、まだ分からないのか。上から見下ろされてるんだよ。キーワードは"T"なんだってば」
すぐ耳元で福沢の声が聞こえる。周りでひときわ大きな笑い声が起きた。