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福沢はそんな僕の気持ちに全く気付かないように、また同じ言葉を繰り返した。
「さあ、これから僕のノックを受けるんだ。君は地べたを這いつくばってでも、それを受け止めなければならない。たとえ火の出るような球でもね」
「一体いつまで」
僕は半分可笑しさをこらえながら尋ねた。
「まず千本だ。それが終わったらその一千倍」
「それが終わったら?」
「一千億光年――、いや永遠にだ。僕たちは彼女の呪いにかけられているんだからね」
「それじゃあ宇宙の外にまで飛び出しちまう」
僕はすっかりばからしくなって、その場を離れた。
「いいか、キーワードは"T"だ。分かってるな」
福沢の言葉を背中で聞きながら、どこかで聞いたことがある台詞だなと思った。しかしどうしても思い出せない。
ふと校舎を見上げると、教室の一つに明かりがともっていた。僕たちのクラスだ。
みんなは教室にいるのだろうか。それに彼女も。
真っ暗な階段を、何とか手すりを頼りにのぼった。三階まで上がると、廊下に明かりが漏れている。
近づくとひそひそ囁くような声が聞こえてくる。それはすぐ耳元で聞こえるような気もしたし、教室の方から聞こえてくるような気もした。
次第にそれは、がやがやと騒ぐ声や、どっという哄笑に変わる。
こんな時間まで一体どうしたことだろう。補習でもやっているのだろうか。
そう思いながら教室のドアに手をかけた途端、それまでの喧騒が嘘のようにぴたりと静まり返る。
どきりとして廊下のはずれの方を見たが、真っ暗で何も見えない。まるで永遠に続く闇のように思われる。
そして突然思い出した。
袋小路だ――。