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福沢はぽかんとした顔をしていた。
「何をわけの分からないことを言ってるんだ、お前は」
よく考えてみたら、こっちの夢の中の話なんだから彼がそう言うのも当たり前である。苦笑いをしてごまかした。
しかし向こうは容赦してくれない。
「そんなことだから、いつまでたっても彼女ができないんだ。よし、今度会社の女の子を紹介してやろう」
その台詞はもう何百回も聞いたが、いまだに履行されたことがない。
その後彼は酔いつぶれて、カウンターに突っ伏してしまった。呂律の回らない口調で一人で喋っている。
「俺はお前を買っているんだ。俺のあきらめた夢……。それをお前が追ってくれている。
お前が……、いや、そんなお前を俺はうらやましいと思うこともある。でも嬉しい。おい、カツ。分かってるか」
「分かった分かった。さあもうそろそろお開きにするか」
そう言って肩に手をかけたら、払いのけられた。
「いいから黙ってろ。おい、あれだ……。あれはいつかまた返せよ。俺にだってまた必要になるときもあるかもしれないから。
あれには……、うん、ついでにお前にも本当に感謝してるんだ。うん……。だから応援する。
でも無理はするんじゃないぞ。いざとなったら、俺が取引先の仕事を世話してやるからな。そうそう、ついでに女の子も」
やれやれいったい何を言っているんだか……。
気が付いたら、カウンタに突っ伏したまま眠っている。
はたからは順風満帆には見えても、本当はいろいろ抱え込んでいることもあるのかもしれない。
咸臨丸コンビと呼ばれていた時のことを、なぜだかふいに思い出した。
僕はユキチのことをそのまま放っといて、一人でゆっくりおいしい酒を飲んだ。




