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少しふらつきながら立ち上がり、玄関のドアを開けた。
そこに立っていたのは、福沢だった。
スーツをきちんと着ていたが、リュックサックを背負った肩越しにT型定規が斜めに突き刺さっているのが見える。
両手にも大きなレジ袋を重そうに提げていた。
「いやあ、ここまで電車を乗り継いでくるのは大変だったよ」
汗びっしょりになっている顔を、背広の肩のところでしきりに拭おうとしている。
「いま夜中の何時だと思ってるんだ」
突然の訪問に、そう口を開くのがやっとだった。
「何を寝ぼけたことを――。まだ九時にもなってないぜ。さあ久しぶりに一杯やろうじゃないか。宴はこれからだぞ」
僕が不機嫌そうにしているにもかかわらず、何の頓着もなさそうに言う。それから勝手にずかずか家の中に上がりこんできた。
九時……? まだそんな時間だったのか。
いったい俺は何時に寝て、それからどれぐらいの間うつらうつらしていたのだろう。
そして何回、あの夢を見たのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えている間に、福沢はレジ袋をどさりと床に置くと、冷蔵庫を開けた。




