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驚いて教頭の顔を見つめていると、
「いや、君にあれを言われた時には参ったよ」
と向こうは苦笑いした。
「人間の身体から出るもので一番汚いもの、それは言葉だと。あれを彼女に教えたのは、この私だったからね。
それを彼女が覚えていて、また生徒たちに教えてくれている。それが嬉しくてね。まあ、もともとはキリストの教えの変な受け売りなんだけれども」
「そうだったんですか」
僕は大きく息を吸い込み、もう一度教頭に深々と頭を下げて謝った。
教頭は続けた。
「当時、私はまだ若く、ただがむしゃらに教師としての仕事に邁進しようとしていた。
彼女は中学生の時に両親と弟をいっぺんに失ったばかりでね、たぶんその心の傷もまだ癒えてなかったんだと思う。
それでも必死で生きようとしていた。だからなんだろうね。そんな私を信頼し、いつも真正面から私にぶつかってきた。
私はそんな彼女をいつもたしなめていたんだ。
人生、そんなに真っ直ぐ突き進むだけではいけない。
時には曲がることも必要だ。もし曲がれる場所がないのなら、そこでじっと立ち止まってみるがいいと」