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外に出ると、雪は相変わらずチラついている。
雲は出ていたが、南の空の一部は晴れていて、そこからオリオン座の四角形と冬の大三角形が見えた。
「幸先いいですよね。真夜子先生」
空を見上げたまま、ひとりごちた。
すると、小さな白いものが一つ、ふわっと落ちてくる。
つかまえようとしたら、どこかに消えてしまった。
はるか天空の彼方から落ちてきた星の欠片のような気もしたし、誰かがよこしてきたメッセージのような気もした。
マフラーと耳当てをして、自転車に飛び乗る。
雪はそれを待っていたように、急に勢いを増していった。
不思議に寒さは感じなかった。
どんどん自転車を漕いだ。アスファルトに雪がうっすらと積もっているのが、車のヘッドライトに反射している。
振り返ると、自分の漕いできた自転車のわだちの跡がくっきりと見えた。
家に帰り着いた時は、もう大降りになっていた。
車庫の隅に自転車を入れると、庭に出てもう一度夜空を見上げた。
もうオリオン座は見えなかった。高い空の一点から、雪は際限もなく次々に降り続いている。
両手を広げて、一身に浴びた。
いつか夢の中で、星々の光が身体に降り注いできたことを思い出した。自分が何か暖かいものに包まれ、守られているような気がした。
僕はその時になって初めて泣いた。真夜子先生のために流す涙なのか、福沢のためのものか、それとも自分のための涙か分からなかった。
おそらくその全部なんだろうと思った。