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「あいつに以前、言われたことがあってね。これじゃあ僕は、この世に生まれてくると同時に親に殺されてしまったも同然だと。
その時はただ腹を立てただけで、そのことについて深くは考えなかったけれど、この頃になってやけにそれが応えるようになってね。
いつも自分を責めたり悔やんだりしているんだ。自分は息子にいったい何てことをしてしまったのだろうと」
「あなた、そんな風に自分を責めてばかりじゃ駄目よ。大切なことは、今あの子のために私たちが何をしてやれるかだと思う」
お母さんが横でお茶を入れながら言った。
「彼を信じて、見守ってあげてください」
僕は、自分が生意気だと思われるんじゃないかなと案じながら、思い切って言った。
「彼は今自分の人生をたどり直そうとしているんです。そしてそこに新たな意味を見出そうとしている。そのためには時間が必要なんです。
一見無駄な時間と思えるかもしれない。でもきっとそこから何かが生まれる。僕はそう信じています。
それに彼は約束してくれました。また学校に戻ってくると。僕は友達としてそれを信じます」
二人はまた顔を見合わせた。
「本当にそう信じてくれるんだね」
お父さんが言った。
「君はあいつと友達だし、君でなくては分からないこともあるだろう。その君が信じてくれるというなら、私たちもあいつを信じ、これからも辛抱強く待ってやることにしよう」
「お願いします。彼はきっと大丈夫です。でももし何かあったら、知らせてください。僕はまたいつでも来ますから」
いつの間に大人に対してこんな口が利けるようになったのだろうと不思議に思った。
「有難う。有難う」
お父さんは僕の手を両手でしっかりと握り締め、何度も何度も頭を下げた。太くてがっしりとした暖かい手だった。




