5
「あれから俺はずっと、これまでの自分の人生について考え続けていた。いや、自分の人生とさえ言えない。小さい頃から親の言いなりだったから。
あちらの塾、こちらの塾と通い詰めだった。同じ漢字をノートに百辺も書かされたり、くそ面白くもないバイオリンを弾かされたり……。まるで拷問さ」
ユキチがバイオリン?
思わず吹き出しそうになったが、ぐっとこらえる。
急いで反対方向を向き、定規を小脇に抱えると、ギターを弾く真似をしてごまかした。
彼の独白は続いた。
――そりゃ成績がいいから少しは得意になった時もあるさ。でも何かがおかしいとずっと感じていた。
俺だってほかの子供たちと同じように、外で真っ黒になって遊んだり、サッカーとか野球とかやってみたかった。
そのうち、いつの間にか親を恨み、反抗するようになっていたんだ。
とうとうある日、自分の進むべき道が全く見えなくなって、途方に暮れてしまった。それを救ってくれたのが真夜子先生なんだ。
まるで一本の明かりが、前方の道を真っ直ぐ照らしてくれているような気がしたよ。だからそれに向かって、俺は俺なりに一生懸命に歩いていこうと思った。
その矢先に先生があんなことに……。目の前がまた真っ暗になってしまった。
それから俺は毎日毎日お笑いのビデオを見て過ごした。悲しみから逃げたかったこともあったけれど、かえってそれが逆効果だった。
ビデオを見てひとつも笑えないだけでなく、これが本当に俺の進むべき道なんだろうかと、毎日思い悩む羽目になってしまったんだ。
そしてついに思い至った。
違う。やはりこれは俺の進むべき道ではないと。
それから俺は一歩も動けなくなってしまった――。