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僕は膝の上に抱えたT型定規を黙って見つめ、その表面にある無数の傷を指でなぞった。
その一つ一つがとても大切で愛おしいものに思え、つい涙が出てきそうだった。
福沢がさっきからそれをチラチラ見ているのが分かる。もうあえて目を背けたりはしていないようだった。
「おい、カツ……。今だから言うけどな」
「うん、何だい」
彼の方から再び口を開いたことで救われたような気がした。
「俺はお前と漫才コンビを結成して、いつか絶対スターになってみせると心に決めていた。
そしてその時になってもまだ先生が独身だったら、その時こそはプロポーズをしようと……、そんなことを夢想していたんだ。とんだお笑い種だよ」
これには仰天してしまった。まさか彼がそんな人生設計を描いているうえに、自分もその中に勝手に組み込まれているとは。
いつかのブーブークッション事件を思い出した。そして、舞台で変な化粧をした自分が福沢に一斗缶で叩かれるシーンを想像し、ぞっと身震いした。
彼はそんなこちらの気持ちには全く気付かないかのように続けた。
「でも俺は本気だった。俺の唯一の夢であり、希望だった。それが……だ。それがみんな吹っ飛んでしまったんだぞ。お前に分かるか? この気持ちが」
「分かるよ」僕は心からそう答えた。
もちろん彼と漫才している部分はカットした。それだけは真っ平ごめんだ。
「分かるもんか」
福沢はごろりと横になると、両手を頭の後ろに組んだ。