3
僕は、彼が再び話し始めるのを辛抱強く待ちながら、右肩にかけていたT型定規を左に移したり、膝の上に載せ変えたりしていた。
テレビ画面の中では、おかしな化粧をしたコメディアンが大袈裟にすべったり転んだりしている。そのたびに観客から笑い声が響く。
彼は黙ったまま、それをじっと凝視していた。僕も何も言わずにそれに付き合った。
テレビの中では相変わらずの大騒ぎである。
誰かがそのおかしな化粧をした芸人の頭を一斗缶で叩くと、それは大きくへこみ、芸人の方は寄り目になって倒れてしまった。会場は大爆笑だった。
いつもなら無条件に笑えるのに、その日は少しも笑えなかった。
福沢も同じ気持ちだったのか、不意に立ち上がるとテレビのスイッチを切った。それからまたベッドに戻り、腰掛けた。
少し間があった後、彼は小さな声で言った。
「最初から無理だと分かっていたんだ」
黙って耳を傾けていると、彼は続けた。
「真夜子先生はずっと年上だし、それに恋人がいて当たり前だと思っていた。
だから最初から諦めていたんだ。だけど、せめて……好きだということだけは言いたかった。振られてもいいから」
適当な言葉を捜そうとしたが見つからない。それに何かを言えば、先生に対する自分の気持ちをそのまま口走ってしまいそうだった。
今そんなことがばれてしまうのはまずいと思った。今はこいつの気持ちを聞いてやることの方が大切なのだ。