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「おい、開けろ。まさかお前、変なこと考えてるんじゃないだろうな。おい、開けろって言ってるんだ、畜生――。よおし、こんなドアぶち破ってやるぞ」
お母さんが驚くだろうかと少し心配したが、今はそれどころじゃないと思った。
「おい開けろ。さもないと本当にぶち破るぞ」
ドアをドンドン叩きながらそう叫んでいると、君何をしてるんだという声が背後から聞こえた。
振り返ると、福沢が幽霊のようにつっ立っている。
心臓が今にも破裂しそうになって、一瞬言葉が出なかった。
「お前こそ何をしてるんだ」
やっとのことでそう言い返すと、
「トイレに行ってたんだよ。それも大きい奴。だからお前がそこで大声で叫んでいても、出るに出られなかったのさ」
「トイレって? トイレが二階にもあるのか」
すると彼は、やれやれとでも言うように両手を横に広げた。いつもやる生意気なポーズだ。
「そんな間抜けな質問などしていないで、さっさと中に入れよ」
相変わらず、不機嫌そうな顔をしている。
部屋に入ると、中は広い洋室で、意外にも清潔に片付いていた。僕の部屋の四畳半とは大違いだ。
「まあ、どこでも空いた所に座ってくれ」
彼はそう言って自分も座椅子に座ると、こちらに背を向けるようにしてテレビのリモコンを手に取った。
僕の携えているT型定規には、あえて気付かない振りをしているようだった。
僕は仕方なくベッドの上にそれを置くと、その脇にどしりと腰を下ろした。