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僕はじっと考えた。こんな時、真夜子先生ならなんと言うだろう。
テーブルの下に置いてあったT型定規を取り出し、膝の上に載せた。
ええい、当たって砕けろだ。行っちゃえ行っちゃえ――。
実はこれも真夜子先生の口癖だった。数学の問題を解くときに、いつもそう言っては、悪戯っぽい笑顔でみんなの方を見るのだった。
「彼に会わせてもらえますか」
僕がそう言うと、お母さんはしばらくうつむいて考えていたが、やがて顔を上げた。
「勇吉がドアを開けてくれるかどうか分からないけれど、どうか彼に会って話を聞いてやってください」
そう言うと、僕に向かって深々と頭を下げた。
二階に上がりドアをノックしたが、応答はなかった。
もう一度ノックした。
やはり中からは何の反応もない。
「おい、僕だ」
と呼びかけてみた。
しかし返事はない。
少し悲しくなる。そのうちだんだん腹も立ってきた。
「おい、僕だよ。カツだ。冷たいじゃないか。返事ぐらいしろよ。それとも俺とお前の仲はこんなものだったのか」
しかし相変わらずドアの向こうは、しーんと静まり返っている。
ふといやな予感がした。