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翌日の夜、二人は和解した。
父親は息子をぶったことを詫びた。
そして高校だけはとにかく卒業してくれ、自分の将来についてはこれからゆっくり考えればいいし、まだ若いのだからいくらでもやり直しができると諭した。
息子は親に対して言い過ぎたと謝った。そして、やはり高校には行くことにしたので、もう少しこのまま自分を見守ってほしいと頼んだ。
彼が言うには、ある日突然、夜道でたった一人取り残され、前も後ろも見えずそれ以上一歩も歩けなくなったような恐怖感に襲われてしまったということだった。
それを救ってくれたのが何とこの僕であり、また真夜子先生だったというのだ。
福沢はこうも言ったという。
自分は今、あいつとコンビで人を笑わせるのが楽しくて仕方がない。将来はそういう道に進みたいという気持ちがだんだん強くなっていると。
親はとりあえずそれを許した。
そのうち、また気が変わるさ。父親はあとでこっそりそう言ったという。
芸人の世界はそんな甘いものじゃない。あそこで勝ち残るのは、真面目にこつこつと勉強して一流大学に行くよりもはるかに難しいことなんだ。
あいつも馬鹿じゃないから、今にそのことに気付く。その時にきちんと支え導いてやるのが、俺たち親の役割さ。だから今は、本人のいいとおりにやらせてやろうよ。
父親はこう言って、心配する母親を説得したらしい。
そこまでの話を聞いて、僕は愕然とした。
あの福沢にそんな葛藤があったとは――。
いつも快活で饒舌だった彼からは、到底想像できないことだった。
「それがまたこんなことになってしまって、もう私たちにはどうしたらいいのか。何しろ頼りの根津先生が亡くなってしまったのだから……。
とにかく今は、本人をいたずらに刺激しないようにそっとしておいてあげるのが精一杯なの」
そう言ってお母さんは肩を落とした。