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「あなたは知らないかもしれないけど、一時、とても荒れた時期があったの」
その話によるとこうだった。
福沢は高校に入学するまでは、親の言うことを何でも素直に聞くとてもいい子だった。
彼の父親は今は県議会議員をしているが、苦労人だったため、自分と同じ苦労はさせたくないと、幼い頃からあちこち塾に通わせたらしい。
そのため、成績はいつもトップクラスだった。それが高校に入学したとたん、ガタ落ちになってしまった。
親は当然ひどく叱る。彼も最初はおとなしく聞いていたが、そのうち面と向かって反抗するようになった。
ある日ついに、もう学校をやめると言いだした。
こんなのは本当の自分の人生ではない。みんな押し付けられたものだ。本当は自分も、ほかの普通の子供たちと同じように、自由に遊びたかった。
それをおもちゃもゲームもみんな取り上げられ、勝手に親が敷いたレールの上を自分は歩かされている。
もうこれ以上はごめんだ。放っといてくれ。自分の道は自分で決める。
そう言い放ったとたん、父親から頬をぶたれた。
「親の気持ちも分からないで」
「有難迷惑なんだ」
激しく睨み合った。父親がなおも手を上げようとするのを、母親が必死で止めた。