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いったん畳の上に置いたT型定規を、また手に持ってそわそわしていると、お母さんがお盆にお茶を載せてやってきた。小さな和菓子もついている。
やや緊張しながらお茶を飲んでいると、彼女はそんな僕をじっと見ながら言った。
「そう、あなたがカツ君……」
この様子だと、僕のことを結構うちでしゃべっているらしい。それにしても何て言っているのだろう。どうせろくなことじゃあるまい。
ぎこちなくお菓子を食べていると、彼女はまた口を開いた。
「あなたのことはよく聞いているのよ。勇吉があんなになって、あの子の父親も私も、もうどうしていいんだか……。どうか学校の様子など聞かせて頂戴」
懇願するようにこちらを見た。
「彼とクラスが一緒になれて本当に良かったと思っています」
僕は福沢のお母さんを前にして少し緊張していたので、言葉少なにやっとそう答えた。
それにしても、どうしてもっと気の利いたことが言えないのだろう、と恥ずかしく思った。
案の定、相手はそれだけでは満足できなかったのか、黙っている。
それで僕は、しどろもどろになりながらあわてて付け加えた。
「僕は勉強の方はさっぱりだめですが。それに福沢も……。
あっ、済みません。そ、その……、彼はとてもいい奴で、一緒にいて毎日が楽しくて仕方がなかったということを、僕は言いたくて。
それなのに先生が……。根津先生はとてもいい先生だったのに。だから、その……彼が今登校してこないのはとても寂しいです」
お母さんはようやく少し笑顔になった。
「よく二人でみんなを笑わせてたそうね」
「すみません。僕が彼をつまらないことに引きずり込んでしまって」
頭を下げて謝った。
しかしこれは事実と逆である。彼は陽気で人をそらさない魅力の持ち主だったが、僕の方はむしろ内気で、人前でしゃべるのもあまり好きではない。
要するにネクラ人間なのだ。それなのに彼とは不思議に馬が合って、いつの間にか一緒に馬鹿なことをしては、人を笑わせるようになってしまったというのが実情なのだ。
何だか損な感じもしたが、今日のところは謝っておくしかないと思った。
「そうね。前はあなたを恨んだかもしれない。困った友達ができたものだと」
そう言われ、心臓がドクンと波打つ。