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問題は彼の母親だ。教頭にあんな態度を取る位だから、この僕だってどんなことを言われるかか分かったものじゃない。
何しろ福沢と二人でさんざん馬鹿なことばかりやってきたんだから。彼の成績が下がったのだって、きっと僕のせいだと思っているに違いない。
そう思って少し胸がどきどきしたが、思い切って門扉のインターーフォンを押した。
「どなたですか」
という声が聞こえたので、1年3組の者ですと告げた。
するとやや間があって、
「悪いけど、勇吉は誰にも会いたくないと言ってるの。わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」
という返事があった。
あわてて食い下がった。
「待ってください。待ってください。今日は彼にどうしても見せたいものがあるんです。カツが来たとそれだけ伝えてもらえませんか」
するとまた間があった。今度は長い沈黙だった。
じっと待っていると、近所の奥さんらしき人が通りがかって、僕と僕の持っているT型定規をじろじろ見比べた。
しばらくしてインターフォンから声がした。
「カツ君……。あなたカツ君なのね」
福沢のお母さんは意外にも優しそうな人だった。
「ちょっと、待っててね。今、お茶を出しますから」
僕を座敷に通すと、そう言っていなくなった。
きょろきょと見回すと、床の間に椿と雀が描かれた掛け軸が飾られている。その下には、何の花だか分からなかったが、生け花がすっきりと上品に生けられていた。
まさか茶道などさせられるんじゃないだろうな。少し心配になる。
福沢はここに来るんだろうか。そもそも会ってさえくれないのでは。