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「恥ずかしい話だが私は教師失格だ。これで福沢君が本当に学校に戻れないようなことにでもなれば、私は責任を取って教師を辞めようと思っている」
教頭はそう言ってうなだれた。
以前は威圧的で、畏怖感まで覚えるような存在であったが、その日はとても小さく見えた。
横に座っていた校長が言った。
「そんなに自分を責めることはない。君は根津先生を守ろうとする一心で、わざとみんなの前できつくあたったのだから。
それに彼女の自殺は、そのことが原因ではない。現に彼女は君に遺書を残して、1年3組のことを君に託しているじゃないか。君はしっかりとそれに応えないといけないよ」
教頭はうなだれたまま、首を振るばかりだった。
「やれやれ君がそんなことでは生徒たちはどうなるんだ」
校長は少しため息をつくと、こちらを見た。
「今日は君に頼みがあって来てもらったんだが。用件はもう分かるね」
僕は大きく頷いた。
教室に戻ると、もう放課後のことだったので誰もいない。
がらんとした部屋の中で、僕はしばらくぼんやりとして座っていた。
日直が閉め忘れたのか、窓辺の白いカーテンが揺れた。いつか真夜子先生が、僕たちの不始末に表情を曇らせながら立っていた場所だ。
カーテンの揺れる先には、例のT型定規が黒板の片隅に斜めにぽつんと立てかけられているのが見えた。
僕はそれを手にすると、福沢の家に向かった。