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通夜の時だった。
焼香の順番が来ても、福沢は遺影を見つめたきり、いつまでも動かない。後ろの人間に促されると、うそつき……と低く呟いた。
それから堰を切ったように、叫んだ。
「先生は言ったじゃないか、人生に行き止まりはないって。それを何故――」
僕は急いで彼の元に駆け寄り、その肩を抱くようにして会場の外に連れ出した。
ロビーで熱い缶コーヒーを一緒に飲んだ。二人とも一言も口を利かなかった。
――チクショー、悲しいのはこの僕だって同じなんだ。
二人ともそのまま黙って、いつまでもそこに座り続けていた。
福沢は、例の下痢を理由に欠席した日から学校を休みがちだったが、この日以降まったく登校しなくなった。
一週間たっても来ない。
電話をしてみようかなとも思ったが、今はそっとしておいた方がいいだろうと思い直した。
二週間目に、僕は校長室に呼ばれた。
部屋に入ると、応接椅子に教頭が悄然として座っている。福沢に会いに行ったが、母親から断られたらしい。
「そもそも根津先生個人のことじゃないですか。あんな風にPTAの役員の前で謝罪までさせるなんてひど過ぎます。私はもともと快く思っていませんでした。
それに何故相手の人はお咎めなしで、彼女だけが責められないといけないんですか。今度のことで、息子はどれだけ心に深い傷を負ったことか。先生には、うちの子を安心して任せられません」
こう言って、教頭のことをひどくなじったらしい。
いくら頭を下げて懇願しても、母親の態度は変わらなかったという。