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何も書かれていない黒板を見ながら、あの時の記憶が悔しさとともによみがえった。
でも、まあいいや。
昨日からの教頭に対するわだかまりが取れた上に、真夜先生がまた戻ってくる望みが出てきて、その日の僕は飛び上がるほど嬉しかった。
彼女が自殺したのは、それから数日後のことだった。
彼女に何があったのか、生徒には一切知らされなかった。しかしそんなことはどうでも良かった。
大人の恋愛のことなんて、僕たちに何の関係があるだろう。肝心なことは、彼女がもう二度とは戻ってこないことだった。
彼女には親兄弟はなく、独身の叔母以外に身寄りはなかった。彼女が中学生の時に、交通事故で両親と弟を一度に失い、教師をしている叔母に引き取られたらしい。
――親のことを消えていなくなればいいなんて、たとえどんなことがあろうと、決してそんな風に言ってはいけない。
あの時先生はどんな気持ちでそう言ったのだろうか。
そう考えると、ひどく胸が痛んだ。
一年三組で集めた署名と、その後一年生全員とその父母から集めた署名は棺に入れられた。
真夜子は幸せだ、教師冥利に尽きる、と叔母は言った。彼女も元教師で、その姿を見ていて真夜子先生も教師になると決心したらしい。




