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「袋小路に陥ったのね」
不意にそう言う声がした。
見ると、彼女の顔が福沢のほうに向けられている。
福沢は先生の顔がすぐ近くにあったので、あわててまた空の方に向き直った。
「もがけばもがくほど、そこから出られない。私には分かる。だって私にもそういう時期があったもの」
彼は相変わらず無言だった。
河口近くだったので、潮とアオサの香りがした。草の香りに混じって、先生のいい匂いもかすかに漂ってくる――。
しかし無情にも、福沢のワキガにかき消されてしまった。
チクショー、神様は不公平だ。僕も先生に反抗してみれば良かった。そう思って、彼を恨んだ。
すると先生がまた言った。
「無理することなんてないよ。今はそこにとどまっていればいい。
あなたには戻れる道があるんだから。いつか自分の足でね。だから今は、安心してそこにいていいよ」
しかし福沢は相変わらず一言も発しない。僕はさっきから別のことで彼に腹を立てていたので、ひとつ意見をしてやろうと思って、そちらを見た。
すると彼の目尻から涙が流れていた。声も出さずに静かに泣いている。
彼のそんなところを見るのは初めてだった。
僕はそ知らぬ顔をして起き上がった。手元にあった石ころを、川の方向に向かって投げた。それから立ち上がって、その辺をうろうろした。
今度こそ真夜子先生のすぐ隣にいくんだ。そう思った時だった。
「さあ、もう教室に帰ろうか」と彼女が言った。
福沢は素直に従い、立ち上がった――。