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二人で川に行くと、案の定福沢はそこにいた。ベンチには座らず、堤防の斜面に仰向けになって寝そべっている。
真夜子先生は唇に人差し指を当て、そっと近づいた。
すぐ右横に座ると、白衣のままいきなり大の字になって寝転がる。
彼の方はぎょっとして、上半身を起こした。
真夜子先生は構わずそのまま目を閉じている。
僕は胸をどきどきさせながらしばらく迷っていたが、仕方なく福沢の左横に尻餅をついた。
対岸にも堤防があって、その向こうには高い建物などは何もなく、空はどこまでも広く、真っ青に澄み渡っている。
左手には赤い鉄橋があって、電車がゴトゴト言いながら通り過ぎていった。
「あーあ、このまま何もかも忘れて、一日ここでこうやって過ごせたらなあ」
先生は目を閉じたまま、ふとそうつぶやいた。
朝の柔らかい日差しが、彼女の顔と髪を明るく輝かせている。
福沢はまた元通り、両手を頭の上に組んで寝転がった。さっきからふて腐れたように、ひとことも口を利かない。
僕も所在なく、ごろりと仰向けになった。
空は高く透明で、白い雲がゆったりと頭上を横切っていく。




