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真夜先生が何か言いかけたが、彼は構わずにまくしたてた。
「このままじゃ生まれてくると同時に、親から殺されたも同然ですよ。あんな親、いっそのことどこかに消えていなくなっちまえばいいんだ」
先生は教壇をおりると、つかつかと近づいてきた。福沢の頬をいきなりパシッと平手打ちする。
「あなたの言うことは分かる。でも、親のことを消えていなくなればいいなんて、たとえどんなことがあろうと、決してそんな風に言ってはいけない。
そんな汚い言葉を使っちゃ駄目なの」
両手を組み、身体を小刻みに震わせている。
福沢は頬に手を当て先生を睨み返していたが、不意に立ち上がった。福沢君、待ちなさいと言うのを無視し、そのまま教室を駆け出していく。
先生はしばらくうつむいて唇を噛んでいた。やがて顔を上げて、僕の方を見る。
「たぶん、川の方に行ったんだと思います」と僕は答えた。
校舎のすぐ近くには川があって、堤防の上の道路を僕と福沢は通学路にしていた。
自転車置き場から道路を横切って堤防をのぼると、すぐ下は河川敷になっていて、市民が憩えるようにベンチなども設置されている。
二人とも部活をしていなかったので、学校の帰りにはよくそこに座り込んでパンを食べたりしながら、とめどなくお喋りをしたものだった。
「良かった。今日の1時間目はちょうど私の授業ね。みんな御免。すぐに戻ってくるからそのまま自習してて。――さあ、あなたも」




