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「人生はリセットできないし、たどってきた足跡を、こんな風に簡単に消し去ってしまうこともできない。
みんなは自分の大切な人生が、こんなくだらない落書きみたいなものでいいの? どお、ユキチ君」
挑戦的な目付きで微笑んでいる。
しかし呼びかけられた方は、何かが癇に障ったのか膨れっ面をして横を向いている。
僕も正直言って、また魔女のお説教かと少しうんざりしていた。
真夜子先生はそんなことには一向に気づかないように続けた。
「人生はこの何も書かれていない黒板に、恐る恐る文字を書いていく作業に似ていると思う。
いい加減ではいけない。たどたどしくてもいいから、一つ一つ丁寧に、真面目に書いていくの。
あなたたちは若いんだから、その一日一日を大切にして、何にでも真っ直ぐひたむきにぶつかっていかなきゃ。
たとえ失敗したって、カッコ悪くたっていいじゃない。そんな自分が愛おしく思える時が、いつかきっとやってくる」
すると福沢が言った。
「先生は、今の僕たちの毎日が、さっきの落書きみたいにくだらないものだと言いたいんですか」
「誰がそんなことを言った?」
彼女は腕組みをすると、真っ直ぐに福沢を見つめた。
しかし福沢は引かなかった。
「いや、先生はきっと内心ではそう思ってるんです。ゆうべ両親からも同じようなことを言われて、さんざん叱られました。
このままでは、僕はろくな人間にならないそうです。
自分のことは棚に上げて、ああしろこうしろとか、あれもするなこれもするなとか、僕たちをすっかりがんじがらめにして、可能性を全て閉ざしてしまおうとする」