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袋小路と白い魔女  作者: 葉月舟
消せぬ足跡
20/57

 先生はみんなの署名を大事そうに胸に押し当て、はらはらと涙をこぼしたらしい。


 福沢、フクザワ。ユキチ、勇吉! いったい何してるんだ。下痢なんかしてる場合じゃないぞ。


 君の好きな魔女は、いやマヨネーズは、――いや違う違う。根津真夜子先生はきっと、ここに帰ってくる。


 僕は立ち上がって、教頭に頭を下げた。

「先生、昨日は申し訳ありませんでした。どうか僕をぶん殴ってください」


 実はあれからずっと自分を責め続けていた。たとえどんな理由があるにせよ、目上の人にあんな口の利き方をしてはいけなかったのだ。


 頭のてっぺんにコツンという感触がした。


 見上げると教頭がT型定規を持って微笑んでいる。いつも厳しい顔をしているところしか見たことがなかったので、少し驚いた。


「さあ、もう一時間目の授業が始まるぞ」

 教頭はそう言うと、それを元通り黒板に斜めに立てかけ、教室を出て行った。


 僕は、教頭が去った後の何も書かれていない黒板を眺めながら、あることを思い出した。


 始業前に、福沢が例の悪戯心を起こし黒板に落書きを始めたのだ。

 魔女がT型定規に乗って空を飛んでいるところを描いている。


 それからマヨネーズの絵も描いて、「根津マヨネーズ」などと御丁寧に注釈をつけている。本当に子供みたいなやつだ。友達ながら恥ずかしい。


 するとほかの男子生徒も、面白がってこれに加わった。

「不味いマヨネーズ」だの、「暴力女教師」だの、盛んに悪口を書き出した。


 白衣の女が怖い顔で火を吐いているところを描くやつもいる。「魔女の説教師」と、少し気の利いたことを書いたやつもいた。


 女子生徒たちから、ひどーいとか、やめなさいよとかいう声が上がる。


 そこへ真夜子先生がやってきた。彼女は黒板を見るなり、やれやれ、こんなんだから女子に馬鹿にされるのよねとつぶやきながら、落書きを消し始めた。


 全て消し終わると、パンパンと手をはたく。


「いいこと、あなたたち」

 そう言ってみんなを見回した。

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